これが到達点ではない。だから阪神鳥谷敬内野手(37)は表情を緩めることなく、控えめに右翼席へ頭を下げた。

1点を追う5回2死二塁。大歓声の中、代打登場で初球フォークを二遊間にはじき返した。「なんとかつなごうと思って。ヒットになって良かったです」。試合を振り出しに戻す適時打は、球団最多記録を更新する通算2065回目の快音となった。

今季は長すぎる道のりを、歯を食いしばって歩んできた。ベンチスタートが当たり前になった5月下旬。突然、甲子園のロッカールームにあった荷物を一斉に片付け、周囲を騒然とさせた。通算2000安打のトロフィーも記念バットも車に詰め込んだ。人知れず覚悟を決めた1日だった。

「自分から『2軍に行かせてください』と伝えようかとも思った。でも、それは選手が決めることじゃないよなとか、それは自分の勘違いなんじゃないかとか、いろいろ悩んで…。とにかく、もう2軍に落とされても仕方がないと考えて、荷物を整理した」

数日後の5月29日。甲子園のソフトバンク戦でついに連続試合出場が止まった。もう折れてしまいそうだった心に、もう1度炎を燃えたぎらせてくれたのは、他ならぬ家族だった。

大記録に終止符を打った夜、甲子園の駐車場で愛妻の携帯電話を鳴らした。「止まったよ」。短い言葉で伝えると、受話口から家族のおえつが聞こえてきた。

「悔しかったんだと思う。あの時、気持ちを共有してもらえるって本当にありがたいことなんだなと思った。父親として、子供に逃げるなって言っているのに、自分が逃げるわけにはいかないよね」

はい上がろう。そう思わせてくれた。

「自分はすぐに目標設定をできるタイプ。対戦相手のこの選手と打率が一緒なんだ、だったら今日抜いてやろう、とか。同じ打順の相手に勝とうとか」

そんな男だ。家族の思いもモチベーションに変え、腐っている暇があるわけがなかった。記念日は、CS進出の可能性が消滅した悲しい1日となった。終着地点は新たなスタート地点。もちろん、鳥谷は過去を振り返ることなく、また未来に向けて走りだす。【佐井陽介】