ソフトバンク工藤公康監督(55)が、2年連続で日本一監督となった。シーズン2位で短期決戦に入ると、勝利だけを追求した「聖域なき采配」を連発。主将の内川に2戦続けて送りバントを命じ、続く西田のスクイズで先制点を奪取。松田宣は第6戦の出場がなかった。随所に執念のタクトを駆使し、球団史上初、リーグ2位から下克上日本一を達成した。
15回も舞った。工藤監督は「あんなにたくさん上げてもらうとは。みんなの手を感じて、みんなに支えてもらってるんだなと。うれしい思いがこみ上げて、王球団会長にあいさつに行った時にはこらえられなかった」。選手たちの喜びを感じたことがうれしかった。
執念の采配で日本一を決めた。4回無死一、二塁から内川の送りバントで二、三塁に進めた。主将がシリーズ2度目の犠打を決めると最敬礼した。つかんだチャンスは絶対に逃せない。続く7番西田にはカウント0-1からスクイズを命じ、先取点をもぎ取った。
「短期決戦に、こうすれば勝てるという正解はない」。現役時代、3球団で14度シリーズに出場した経験も生かし、短期決戦用の戦いに切り替え徹した。武田、石川を第2先発にして早めの継投で相手を封じた。
CSファイナル第3戦から、工藤政権4年間で今シーズンの1度しかスタメン落ちがない松田宣を外した。「実際、外していいものか悩んだ。だが、今勝つためにはやらなければ」。この日の第6戦では、ついに就任後初の出番なし。大きな決断だった。
シーズン中も重い断を下した。8月16日に心身ともに疲れ切っていた内川を抹消した。「2000安打を達成した達成感もあっただろうし、何か迷っていた。考える時間も含めて体をよくしなさいと」。3位だったチームはそこから9連勝。勝ち続け、2位となった。自身が外れ好調となったチームに戻りにくかった内川も、CSファイナルで復帰。「また戦力になってくれた。主将の復帰は大きい」。36歳の内川、35歳の松田宣への聖域なき決断は、強いメッセージとなった。
今季、打の柱だった柳田にも、9月16日、西武戦の練習中に打球を受けたことに対しては厳しかった。「彼自身、そういうところでストレッチをやっていればボールが飛んでくると分かったはず。ケガはよくないが、失敗して学ぶことで大きな野球選手になる」。防げたケガで直接対決に出られなかった事実を糧にすることを期待した。
「1人1人が何をすべきか理解している」。能力の高い選手たちが、言わずとも自ら動く大人のチームになったことを認める。就任時に「茶髪、ヒゲ、ガムなど禁止」と厳しい姿勢を打ち出したが、今年8月にはガムを解禁。茶髪、ヒゲも黙認している。だが工藤監督は「よくなかったかな。今は認めているけど、来年は締める。キャンプも厳しいものにする」と言った。
2年連続日本一でも、リーグ優勝は逃した。選手に歩み寄るばかりでは、組織として強くならない。来季は契約最終年。自分にも選手にも厳しく、リーグ優勝奪回からの3年連続日本一を目指す。【石橋隆雄】
◆工藤公康(くどう・きみやす)1963年(昭38)5月5日、愛知県生まれ。名古屋電気(現愛工大名電)から81年ドラフト6位で西武入団。94年オフにダイエー、99年オフに巨人へFA移籍。07~09年は横浜。10年に西武復帰後、無所属だった11年12月に引退表明。プロ野球最多タイの実働29年で通算224勝142敗3セーブ、防御率3・45。93、99年リーグMVP。最優秀防御率、最高勝率を各4度、最多奪三振2度。選手で日本シリーズ出場14度は王(巨人)に並ぶ最多。計11度の日本一。15年にソフトバンク監督就任し、15、17年日本一。87、15年正力賞。16年殿堂入り。