近本の、近本による、近本のための球宴だった! 阪神のドラフト1位近本光司外野手(24)が、甲子園で開催された「マイナビオールスター2019」第2戦で、新人ではともに史上初となる初回先頭打者本塁打とサイクル安打を達成した。

令和初の球宴で1試合5安打など記録ずくめのプレーでMVPに選ばれ、賞金300万円を獲得。20安打、11得点で大勝した全セは3年ぶりの白星で連敗を5で止めた。

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土砂降りでも、ずぶぬれでも構わない。「選んでくれたファンに感謝を。子どもたちには、夢を伝えられたら」。夢舞台で、無数のフラッシュライトを浴びる主役は近本だった。先頭打者アーチに、サイクル安打達成…。ビックリの連続で、甲子園を本当のお祭り騒ぎとした。

「自分が出たいと思って出られる場所じゃない。ファンの期待に応えられてよかったです」

スタートから衝撃が走った。全セの先頭打者として打席へ。オリックス山岡の2球目、147キロ直球を捉えた。ぐんぐん伸びる白球は雨を切り裂き、左中間席へ着弾。子どもたちにも、大人にだって夢を届けるアーチを描いた。

「打球を見失って、自分でも入るとは思わなかった。生まれ育った地元の甲子園で打つことができて最高にうれしい。家族にも恩返しができた」

小柄ながらもフルスイングの信念を持つ。170センチ、72キロと決して恵まれた体格ではない。それでも「野球の基本は強く振ることなので…。当てるだけの打撃は、僕には似合わない。しっかり振り切ることが大事なんです」と、俊足を生かした“当て逃げ”はしない。一本足スタイルから繰り出す、思い切りのいいスイングで見る人を魅了する。

2回は右翼線へ二塁打、3回は右前打。サイクルに王手をかけた5回は二塁打だったが、快挙は7回にやってきた。「何としても打球を上げようと思って」とレフトへ大きな飛球を放った。二塁を回った後に1度は迷って? 減速。「なんかあったんですけど…。ほんとに皆さんのおかげだと思ってます」。外野手の前進守備、穏やかな中継プレー、公式記録員の優しい判断? など数々の“演出”サービスもあり? 三塁打に。「歓声は聞こえていた。ファンの声が力になった」。泥だらけの背番号5は塁上で手を上げ、快挙達成に照れ笑いだった。

先制弾を含む5打数5安打で、文句なしのMVPに選出された。「全然、想像してなかった。めちゃくちゃ楽しめた。ほんとに皆さんのおかげです!」。球史に名を刻んだ夜。雨は降っても心は晴れやか。ぬれた甲子園の水たまりには、野球ファンの笑顔が映った。【真柴健】