阪神藤川球児投手(40)が10日、引退試合となる巨人戦(甲子園)で現役ラストマウンドに上がる。最後の火の玉ストレートを心待ちにする虎党を思い、「ファンの方の気持ちを大切にしながら、現役生活を終わりたい」と心境を明かした。プロ22年の集大成。魂を燃やし、興奮と感動の最終回を演じる。

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球児伝説の秘密はどこにあるのか。あれほどの直球を投げるのだから、フィジカルで特別なものがあるはずだ。この仮説は結論に至らなかった。「よく聞かれたんですけど、特別にどの選手よりも体のここが優れてるっていうのは、僕は感じたことないんですよ」。藤川の個人トレーナーを務める檜作英太氏(46)は言う。ただし、話はそれだけで終わらない。こう続けた。「1つあるとしたら、体の変化に自分自身ですごく敏感に感じられるんです」。ごく小さな変化に敏感で、大きなけがにつながる前に自分で止めることができる。檜作氏らトレーナーが気づく前に「ここがちょっと気になるんです」と、言える繊細さを持つ。

投球にもその感覚は生かされる。「映像を見なくても、自分の体が今どういうふうになったっていうのを、投げながらにして分かる選手なんですよね」。1球投げて思う場所に行かなければ、瞬時に体の動きを把握し修正できる。それは入念な復習に基づいたもの。試合が終わると、その日のうちに1人で自らの映像をチェックする。感覚が残っているうちに映像と記憶をすり合わせ、また次の登板へ。「握りとかもあると思いますけど、やっぱり体に対する感覚が非常に優れてると思います」。火の玉ストレートが生まれた土台には、人知れぬ準備と繊細な感覚にあった。

マウンドへ上がれば、もう後ろを向くことはない。「あの上に立ったら全力でやる。調子ええとか悪いとか関係ない。その時の全力を出すだけ」。それは藤川の信念だ。対戦は相手があってのもの。調子が良くても打たれれば、悪くても抑えることもある。野球の不思議や面白さ全てを理解する。登板後のトレーナー室で、藤川が「言い訳」を口にすることはなかったという。一瞬、1球にすべてをかけてきた守護神だった。【磯綾乃】