日本ハムから無償トレードで巨人に加入した中田翔内野手(32)が、移籍後2試合目で「巨人1号」を決めた。DeNA戦(東京ドーム)に「5番一塁」で初先発。2打数無安打で迎えた7回に今永から1号2ランを放ち、続くウィーラーの同点ソロを呼び込んだ。同僚への暴行事件判明から9日後の20日に電撃移籍。その2日後、試合前に長嶋茂雄終身名誉監督(85)から激励を受けて臨んだ初先発の一戦で、野球ができる喜びと感謝を胸に、スラッガーの矜恃を示した。

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足の震えは止まっていた。7回1死二塁。中田は地面をぐっと踏み締め、今永をにらみ付けた。前の2打席は内角攻めで打ち取られた。「(意識は)6対4で内角」。2カ月半ぶりのスタメンだが踏んできた場数が違う。初球の内角144キロに、迷いなく下半身で生んだパワーをぶつけた。白球は大きな弧を描き左翼席へ。大拍手を浴びながら表情を変えずにベースを一周した。直後に一塁守備につく際も拍手に包まれた。帽子を取り、スタンドに一礼。心はずっと震えていた。

中田 こうやって大きな拍手をジャイアンツファンの皆さんからいただけると思っていなかった。本当に当たり前のことではないと思う。本当にありがたいなという気持ちで一周していました。

こんな日が、こんなに早く来ると思っていただろうか。愚行により出場停止となり、自業自得ながら、ユニホームに袖を通せなくなった。猛省の日々。野球を辞めた方がいいのでは…そんな覚悟を持ちつつ、いつか再びグラウンドに立たせてもらえる日が来ることを願い、信じる野球人の自分もいた。出場停止期間中も札幌市内にある日本ハムの球団施設で、ジャージー姿で人知れずに練習した。そんな時に、再スタートのチャンスを与えられた。

電撃移籍から2日後、初先発を告げられた。プロ14年目、通算261本塁打を誇るが、この日の試合前の震えは、毎年の開幕戦とは違った。「ちょっと違った緊張感というか、ふわふわしてしまっているような感じはありました」。大好きなグラウンドで過ごす時間が、落ち着きをもたらした。「2打席目からは自分のスイングを心掛けていけました」。野球に救われた。

事件から18日後にユニホーム姿で野球ができ、本塁打を打って、人々を喜ばせた。この状況は当たり前ではない。中田が許されない暴力を振るった事実は消えない。だが両球団の監督以下多くの人々が、世間から厳しい目を向けられる可能性があるのを覚悟のうえで、猛省する「野球人・中田翔」に救いの手を差し伸べた。小林、丸、菅野ら同学年の選手が「困ったことがあったら言ってこい」と寄り添い、新たなチームメートも仲間として迎え入れた。

だからこそ、今日という晴れの日を迎えられた。中田は「ホームランもそうですし、自分にとっては一生忘れられない、いろんな意味で忘れられない1日になると思います」と感謝の念を心に刻んだ。「巨人中田」の真価が問われるのは、ここからだ。【浜本卓也】

▽巨人原監督(中田について)「引き分けになりましたけど起死回生的なね、(1発に)なりましたね。最善策という中で、彼を使ったというところ。今ちょっと打線が沈滞気味だから、これをきっかけに打線になってこないとね。みんなで攻撃していかないとね」