この日も勝負球はファーストストライクだった。2点を追う7回1死満塁。阪神大山悠輔内野手(26)は戸郷の初球、内寄りフォークを迷わず強振した。

「初球から打つのが自分の持ち味なので。思い切っていきました」

痛烈なゴロが三塁線を抜ける瞬間、主役より先に三塁走者マルテが右拳を突き上げてしまう。それほど価値ある2点二塁打。試合を振り出しに戻すと、ハニカミ笑顔の主将も二塁ベース上で左手を掲げた。

「配球だったり相手投手の特徴はもっと勉強しないといけない。でも、考えすぎて振れなくなるのが一番嫌なので」

今春キャンプ中の2月、本紙評論家の桧山進次郎氏に信念を明かしていた。

「1球見逃すのも、もったいない。1打席で3球しっかり振ろう」

昨季開幕直後、代打出場が続いた時期の感情を今季も大切にしている。

2日前の1日中日戦では同点の6回2死一、三塁、3ボールから決勝打。後半戦初の7番となったこの日は3点を追う中盤にも、積極打法で不穏な空気を吹き飛ばした。6回無死、完全投球を許していた戸郷の初球から振り続け、1ボール2ストライクからチーム初安打となる中前打。代打糸井の適時二塁打で反撃のホームを踏み、7回には値千金の同点打だ。

「うまくいかない時こそ、持ち味を出すことでいい流れになると思っていた」

その言葉通り、最後は3点リードの8回2死一、二塁、2ストライクから戸根の外角低めチェンジアップに食らいついて中前適時打。6月3日オリックス戦以来、3カ月ぶりの猛打賞も記録した。このまま上昇気流に乗りたいところだ。

今季、大山が打点を記録すれば27勝4敗、勝率8割7分1厘。打順が何番であろうと、チームの勝敗を背負う立場は変わらない。

「どこが相手だろうと、1戦1戦、全員で全力で戦うだけなので」

覇権の行方を左右するであろう首位攻防3連戦は残り2試合。冷静かつ積極的に戦い抜く。【佐井陽介】