ヤクルトとの優勝争いに敗れた矢野阪神は、クライマックスシリーズ(CS)のファーストステージでも巨人に2連敗し、尻すぼみの終戦になった。

6月19日に2位ヤクルトに最大7ゲーム差をつけた独走態勢からなぜ失速し、大逆転を許したのか。「矢野阪神 明と暗」と題して敗因を検証する第2回は、前半戦の快進撃を引っ張った規格外ルーキー佐藤輝明内野手(22)の不振が象徴した、攻撃陣の課題に迫った。

   ◇   ◇   ◇

甲子園のインタビュールームに、矢野監督の苦悩が響いた。「今から考えようかなと思います」。9月9日、3-13と大敗したヤクルト戦後。35打席無安打など不振が続く佐藤輝の今後を聞かれ、強い口調になった。直後、初の2軍降格が決まった。今季107試合目、2位に2ゲーム差に迫られた夜だった。佐藤輝は「しばらく眠れなかった」と悔しい夜を過ごした。

4球団競合で矢野監督が引き当てたドラフト1位はキャンプから話題を独占。、力で右翼の定位置を獲得し、横浜スタジアムでの場外弾など、三振を恐れない豪快スイングでアーチをかけ、チーム快進撃の象徴になった。前半戦は84試合で20本塁打。球宴では新人初のセ・リーグ最多得票、43万5605票を集めるなど一躍、全国区になった。

だが、矢野監督は後半戦は苦しむと予想していたのかもしれない。佐藤輝は五輪中断期間のエキシビションマッチで、5戦5発と量産。それでも、指揮官が喜ぶことはなかった。「(シーズンでは)インハイにバンバン続けて投げていく。制球とキレがある投手の時にどうなるのか」。その言葉通り、後半戦は研究を重ねた他球団から、厳しい攻めを徹底された。内角高めの直球と外角低めに落ちる変化球に翻弄(ほんろう)され、打撃は狂わされた。

9月10日の降格から2週間後、1軍復帰したが状態は一向に上向かなかった。21試合で打率1割1分8厘、1本塁打。連続打席無安打をNPB野手ワーストの59に延ばし、欠場も増えるなど不振のまま、シーズンを終えた。CS直前の社会人との練習試合3連戦も8打数無安打。矢野監督は「内容もしっかりしないと。自分のポイントで自分のスイングができないと、結果的に厳しくなるのが続いている」と、巨人とのCS第1戦のスタメンを外した。

チームの大きな反省は、佐藤輝を復活させられなかったことだろう。前半あれだけのポテンシャルを見せながら、別人のような姿で1年を終わらせてしまった。佐藤輝は構えを変え、顔付近にティーを投げてもらって打つなどもがき続けた。だが1年目の新人に、自力ではい上がって来いというのは酷な話。首脳陣もさまざまなヒントを与えたが、結果的に導き切れなかった。

佐藤輝の不調に合わせるように、チームも夏場以降失速した。前後を打っていたサンズ、梅野も同じく打率1割台の極度の不振に陥り、マルテや大山まで不調の波にのみ込まれた。理由は一様ではないが、共通していたのは“不振の長期化”だった。1度スランプにハマると、なかなか抜け出せない。特に優勝争いの佳境で、上げ潮のヤクルトとは対照的に得点力不足に泣いた。個人の問題、指導の問題など原因は様々だろうが、根源を突き止めて改善策を練らなければ、来季も同じ繰り返しになる。

巨人に連敗したCS第2戦。8番でスタメン復帰した佐藤輝は左中間へ適時二塁打を放ち、甲子園を沸き返らせた。矢野監督は「すごく可能性を秘めた選手。良いこと、良くないことを経験できたのは輝に絶対生きていく」と終戦の中に光を見た。それぞれが得た苦い教訓を、尊い教材にしないといけない。【特別取材班】

 

独走からのV逸、CS敗退 矢野阪神 明と暗(1)