巨人のリードオフマンが決めた。1番吉川尚輝内野手(27)が、延長10回2死一、二塁から左中間にサヨナラ二塁打を放った。8回に救援陣が2点のリードを追いつかれたが、今季3度目のサヨナラ勝利で首位ヤクルトに連勝。4時間2分の熱戦を制し、8カードぶりの勝ち越しを決め、ヤクルトの連続カード勝ち越しを「14」でストップ。優勝マジック51からのカウントダウンを許さず、11.5ゲーム差とした。

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打球の行方を見届ける必要はなかった。吉川は同点の10回2死一、二塁、カウント1-2。ヤクルト田口のスライダーを逆方向へはじき返した。走りだした瞬間、仲間が身を乗り出して見守る一塁ベンチへと右手を突き出した。打球が左翼手の頭上を越える。一塁を回り、右拳を何度も突き上げた。

今季3度目のサヨナラ勝利をもたらし、仲間からのウオーターシャワーの味をかみしめた。自身3度目のサヨナラ打。「めちゃくちゃうれしかったですね。何とか当てれば何かがあると思って。やっぱりピッチャー陣が頑張っていましたし、ほぼほぼ全員出た状態の中で決められて。最高の味だと思います」と笑った。

チームに漂いはじめていた暗雲も振り払った。キャプテン坂本がコンディション不良から5回に代打を送られ、3試合連続で途中交代。2点リードで迎えた8回には、救援陣が2失点で同点に追いつかれた。首位ヤクルトの圧力。球場の雰囲気も支配されかけたまま、延長戦に突入していた。

だが、選手はあきらめていなかった。殊勲打の吉川はお立ち台で「ゲーム差はありますけど選手は1戦1戦全力でやっている」と声を張った。球団はかつて、首位と最大11.5差だった96年に「メークドラマ」を、同13差の08年には「メークレジェンド」と大逆転Vを決めている。83試合目。時間は残されている。

吉川自身も、あきらめずに「居場所」を取り戻した。開幕から1番としてチームを率いてきたが、先月は8番も経験。2日広島戦で1番に復帰し、4試合で17打数7安打。「塁に出ることが一番ですし、なんとかいい形で後ろにつなげられればなと」。トップバッターとしての必死さが、上昇気流を生み出している。

チームは8カードぶりの勝ち越し。次に狙うは、ヤクルトからの同一カード3連勝になる。「3連勝できるように選手全員で頑張るので熱い声援お願いします」。リードオフマン吉川にも、チームにも、力強さが戻ってきた。【浜本卓也】

◆メークドラマ 1996年、長嶋巨人が首位広島に最大11・5ゲーム差をつけられたが、7月以降勝ち星を重ね、広島の失速もあり逆転優勝した。その途中で、長嶋監督が「まだまだ分からない。メークドラマを演じてみせますよ」と予言。この言葉は同年の流行語大賞に選ばれた。08年の阪神との最大13ゲーム差をひっくり返したリーグ優勝はメークレジェンドと評されたが、流行語大賞は候補のノミネートにとどまった。

○…原監督は吉川のサヨナラ打に「チームがこういう状況の中で、一本出たのは大きいですね。内容がすごくいい。自分のスイングができているところに価値がありますね」と評した。2点リードの8回は平内、今村で追いつかれた。「うちのリリーフの中では非常に格付けの高い2人が何とか、というところはありましたけど、2点で抑えたところに今日の勝利があったと思います」と言った。

○…中田が、長嶋茂雄終身名誉監督監督の前で8号先制ソロを放った。2回1死、ヤクルト小川の145キロ直球を左中間スタンドに運んだ。7試合ぶりの1発に「フルカウントだったのでしっかりとコンタクトすることを心掛けていました。先制ホームランになって良かったです」と言った。2軍調整中の6月12日、ジャイアンツ球場でミスターから打撃指導を受けた。恩返しの1発で、チームの勝利に貢献した。

○…先発メルセデスは強打のヤクルト打線を6回6安打1失点に抑えたが、6勝目はならなかった。2点リードで救援陣に託すも、8回に追いつかれた。「1イニングでも長くという気持ちでしたが、みなさんの声援のおかげで何とか粘り強く投げることはできました」と話した。

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