おらが町のヒーローが、大きな1歩を踏みしめた。最速154キロの楽天松井友飛(ともたか)投手(23)が、プロ初勝利を挙げた。ロッテ戦で今季初登板初先発。身長190センチの長身から投げ下ろす直球とカットボール、カーブなどを織り交ぜ、5回3安打無失点と好投。プロ2年目、通算2戦目で待望の1勝を手にした。人口7400人ほどの石川・穴水町(あなみずまち)出身。小さな町から生まれた大型右腕が、チームを2カード連続の勝ち越しに導いた。

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松井友は目線を上げながら、感慨深げに口を開いた。「高校時代1勝もできなかったのが、プロに来て1勝できるというのはすごい不思議というか…。不思議っすね、本当に」。

穴水高時代は、3年間で公式戦未勝利。田舎町の公立校で、部員不足のために他校から選手を借りて大会に出場することもあった。3年生の時は同学年が4人、2年生が7人、1年生が2人の合計13人。決して恵まれた環境ではなかった。

高校時代は投手も務めてはいたが、一塁手がメイン。3年春、現在の花園修兵監督が他校から部長として赴任してくると、運命が変わった。赴任後、初めての練習。送球のノビが新指導者の心を打った。「(投手で)プロ野球選手を目指しなさい」と言われるように。マウンドから投げると球持ちが良い。フォームもきれいで、手足も長く、体も柔らかい。直球は130キロ台後半だったが、体ができれば絶対伸びる-。そう断言されたが、当時は寝耳に水の言葉。松井友は「大学で野球をやることも、上で野球をやりたいとも思っていなかった」と振り返る。進路相談で大学に進学して就職を考えていることを告げると「いやいや、待てよ」と、野球を続けることを説得された。

金沢学院大で野球部のユニホームに袖を通すと、真っ白の原石が輝き始めた。最速154キロ右腕にまで成長。全国大会で注目を集め、ドラフト指名をつかんだ。人生、何があるか分からない。「高校で活躍できなくても、今プロの舞台に立っている。そこで終わりじゃないと球児の皆さんに伝えたい」と力を込めた。

成り上がってつかんだ1勝。だが、まだプロの第1歩を踏み出したばかり。「先日岸さんが通算150勝を挙げられて。岸さんみたいに息の長い選手になって、1勝1勝を積み重ねていける選手になりたい」。懸命に右腕を振り続け、野球少年たちの道しるべとなる。【湯本勝大】

◆松井友飛(まつい・ともたか)1999年(平11)10月11日、石川県生まれ。穴水中時代は軟式野球部所属。穴水高では公式戦未勝利。金沢学院大ではリーグ戦で1年秋に最優秀防御率、2年春に最優秀投手。21年ドラフト5位で楽天入団。22年7月8日西武戦でプロ初登板。昨季は2軍で15試合登板して6勝1敗、防御率1・17。190センチ、87キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸700万円。

◆穴水町(あなみずまち) 石川・能登半島の中央に位置する町。金沢市から約90キロ。人口は7482人(3月31日現在)。北部から西部にかけて、能登丘陵の一部をなし、南部は七尾北湾の北辺、東部は富山湾に面している。平安時代の歴史書「日本後記」によると、808年には「穴水」の地名が存在していた。農林水産業が盛んで、カキ、ナマコなどが特産品。同町の主な出身者は、大相撲の前頭遠藤。吉村光輝町長。

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