<阪神7-5巨人>◇29日◇甲子園

 泥だらけのユニホームが誇らしげだった。来日して初めて上がったお立ち台。普段よりも40センチほど高い位置から見回すスタンドからの声援に、幸せを感じずにはいられなかった。阪神バルディリスは先頭で迎えた6回、巨人林から甲子園初本塁打。虎党の前で大きな1発を放ち、初体験の晴れ舞台で何度もはにかんだ。

 「きょうはいい形で打てた。本当に気持ちがいいよ。先発で出られない時期もあったけど、コーチと一緒に練習して、準備だけはしっかりとしていてよかったよ」

 フルカウントからスライダーを1球ファウルで粘った後の7球目。内角に来た直球を迷わず振り抜いた。「次は真っすぐだと思っていた。来たら思い切りいこうと思って待っていた」。読み通りの今季2号。高々と上がった打球に、レフトラミレスは一瞬で打球を追うのをあきらめた。

 8月17日の横浜戦(京セラドーム大阪)以来、8試合ぶりのスタメンだった。「次に左投手が先発するのはいつ?」。思わずこう漏らすほど、出番に飢えていた。それだけに試合前から燃えていた。4回には右中間への浅い当たりで迷わず二塁に向かいスライディングすると、守備でも2度のダイビング。「調子は上がってきていたから、最初からバルディリスでいこうと思っていた」という岡田監督の期待に終始熱いプレーで応えた。

 7月6日の横浜戦(横浜)で来日初本塁打を打った。その翌日、母国ベネズエラでは「日本のビッグスリーがそろって本塁打」と大きくに報じられた。巨人ラミレス、オリックスカブレラと同格の扱い。今や母国では野球ファンの誰もが名を知る存在だ。だが、そんなスター扱いにもまったく慢心はない。「僕はもっとうまくならないと。1年でも長く阪神でプレーしたいんだ」。そんな向上心あふれる謙虚な姿勢が、この日の1発を生んだにちがいない。

 優勝も手の届くところまで近づいてきた。「これからもチームに貢献できるプレーをして、ぜひ優勝したい」。国籍は違ってもハートはほかのナインと同じ。バルディリスの顔から白い歯がこぼれた。【福岡吉央】