<広島4-7日本ハム>◇18日◇マツダスタジアム

 投げて、打って、守った。日本ハムのルーキー大谷翔平投手(18)がついに、正真正銘の“二刀流”デビューを果たした。今季交流戦の最終戦となる広島戦に「5番投手」で先発出場。投手としては4回3失点で勝敗は付かなかったが、プロ入り後最速タイの157キロをマーク。5回の守備からは右翼に入った。9回の打席で代打を送られたが、打っては勝ち越し打を含む3打数1安打1打点。歴史的な1歩を刻んだ。

 1人の青年によって球界の歴史は変えられた。この日のことは何十年たっても、人々の記憶に刻まれる。大谷が偉業をやってのけた。

 大谷

 今までのピッチングよりは疲れたけど、(チームが)勝てたのでそれが一番よかったです。楽しかったですね。

 「5番投手」として先発し、4回4安打3失点。バットでは3打数1安打1打点を記録し、降板後は右翼の守備に就いた。勝利投手にはなれず、特大ホームランを打ったわけでもない。だが、二刀流に挑戦する大谷にしかできない快挙だった。

 1回、マウンドに向かいかけて足を止めた。あわててベンチへと引き返した。尻ポケットに、走塁用の手袋が入ったままになっていた。初回の攻撃をネクストサークルで終えたため、そのまま出すのを忘れていた。「(打席が)回ってくるかなと思っていたので」。初めて両方をこなすことの難しさを、細かなところで感じ取った。

 「意識的に飛ばした」初回に、プロ入り最速タイの157キロをマーク。直後の2回の攻撃では、134キロのチェンジアップにうまくバットを合わせ、一塁線を抜いた。チームの初安打だった。その裏に松山にプロ入り初被弾するなど、打席に立った直後のイニングで必ず先頭打者を出し、「出塁した次の回が大事」と反省した。同点の5回無死満塁の好機には遊ゴロで自ら勝ち越し点を挙げた。勝利投手の権利がかかった5回のマウンドは素通りし、右翼のポジションへ。「集中力を切らさないようにしようと思った。外野は外野の仕事がある」。それぞれの持ち場で役割を全うした。

 北海道から東京へ移動した今月4日、大谷はホテルの自室に到着すると、急いでテレビをつけた。視線の先には日本を世界へ導いた男がいた。サッカーW杯最終予選オーストラリア戦。「見始めたら点を取られた。負けると思った」。だが試合終了間際、本田が同点PKを決めた。「あそこで真ん中に蹴るとは…」。競技は違えど、同じアスリートとして衝撃を受けた。

 この日投じた81球のうち、直球系が62球。自らも「困ったらストレート」と言う。一番自信のある球を目いっぱい投げ込む姿は、強心臓を持つ本田と重なるものがある。3回、死球を与えたエルドレッドが、ヘルメットをたたきつけて激高しても「(動揺は)なかった」と堂々と相手を見据えた。優しい顔の奥に秘められた『負けん気』が、誰もが挫折してきた二刀流挑戦を支えている。

 次回登板は、リーグ戦再開6戦目にあたる26日ソフトバンク戦(東京ドーム)が濃厚。まずはその前に、21日から首位ロッテとの4連戦で打者として暴れる。「まだまだやらないといけないことも多いけど、クリアしていければいいです」。投打ともに、大谷はチームになくてはならない存在になった。プロ野球に欠かせない存在になった。【本間翼】