井上尚弥がまたも文句のつけようのない試合を見せた。期待以上の2回決着とすごいヤツだ。中継局以外のテレビ出演も増えるなど、一般への怪物ぶりの認知がさらに広がったよう。うれしい限りだが、2週間後にはさらにびっくり仰天の出来事が起きた。

6階級制覇王者パッキャオも「ボクシング史上最大の番狂わせの一つ」とツイートで驚きを表した。ヘビー級でIBF、WBAスーパー&WBOの3冠王者アンソニー・ジョシュアがまさかの陥落となった一戦。新王者は世界的無名のアンディ・ルイス。プロ初ダウン後に4度ダウンを奪い、見事に逆転TKO勝ちした。

ジョシュアは英国から米国初進出に対し、ルイスは米国生まれも両親はメキシコ人。身長で10センチ、リーチでは20センチ以上のサイズ差があった。ロンドン五輪金でプロでは22戦全勝(21KO)に対し、アマでは北京五輪予選で敗退し、プロでは1敗も16年に世界挑戦に失敗していた。

当初は元キックのジャレル・ミラーが挑戦予定もドーピング違反し、4月に試合したばかりのルイスは代役だった。オッズは1-33の大差がついた時期もあった。デストロイヤー(破壊者)の異名を持つが、188センチで122キロというポッチャリ体形が、今の時代では異彩とも言える風貌と言えた。

90年代に同じような体形のボクサーがいた。バタービーン。ヘビー級の4回戦王者として、ビッグイベントの前座にもしばしば登場。人気者となって、K-1や総合格闘技にも進出し、日本でも試合している。色物的存在だったが、ルイスは本物だ。

チョコレートバーのスニッカーズが大好物。王座獲得後には同社からお祝いメッセージが発信され、早速スポンサー契約、CM出演で交渉中と報じられている。野球少年だったが父の勧めでボクシングを始めた。見かけからは想像もつかないスピードある攻撃力は見事だった。

ジョシュア陣営は再戦を熱望し、ルイスも受けて立つ構えだ。5月にはWBC王者デオンタイ・ワイルダーが右一発でV9に成功したが、昨年末はタイソン・フューリーと引き分けに、来年再戦が計画されている。一時期はワイルダーとジョシュアとの4団体統一戦が期待された。フューリーが復活し、新たに大金星ルイスが加わり、一転して混迷のヘビー級となった。【河合香】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)