東京・豊島区にある格闘技・プロレスグッズ中古専門店「闘道館」が、今年3月23日に開業20年を迎える。格闘技、プロレス、ボクシングとともに、相撲、空手の武術系まで網羅するグッズの数々を10万点以上も取りそろえる。格闘技マニア・ファンの間では「聖地」として親しまれている。闘道館を運営する我流事典の代表取締役・泉高志館長(45)は「オープン当初は長く続く自信はなかったのですけどね」と苦笑しながら20年間を振り返る。

「最初の10年間は結構、時間がかかるなと感じましたが、次の10年間は早いなと感じます。今でも新鮮なんです。今日はどんなグッズが店に届くのかなと。初めて持ち込まれるグッズほど面白い。『おおっ』となる。玉手箱がポンと開くような気持ちで、飽きないんです」

01年に千代田区三崎町にあるビルの5階、17坪のスペースで格闘技・プロレス図書館として誕生した。当時25歳だった泉氏のプラン通り、格闘技・プロレス専門で漫画喫茶と古本販売をミックスしたスペースだった。「プロレス喫茶店って何? 成功しない」との周囲の心配通り、1年目は赤字経営に。すると泉館長はいち早く常連客の意見を取り込んだ。

「最初は古本、ビデオのみの販売でしたが、Tシャツやマスクも売ってみたらとお客様からアドバイスをいただきました。だんだん喫茶よりも販売の売り上げが増えていき、3年後には喫茶スペースはなくなりましたね。需要と供給にズレを軌道修正していき、今の業態になった感じです」

お宝グッズの価格設定には時間を要したという。「私自身はコレクターではないので。例えばドスカラスのマスクが持ち込まれて(価格は)どうなんだろうとか」。マスクを中心とした相場についても、それぞれのグッズに造詣が深い常連客にアドバイスをもらい、メモを取りながらデータベースを蓄積していった。この20年間で蓄積した価値基準は「うちの財産です」。力道山が現役時代に手にした「初代ワールド大リーグ・メイントロフィー」は525万円で高額販売している。

入居ビルの建て替えで2度移転しているが、店舗は拡大している。13年に水道橋駅前のビルに移転して63坪となり、18年の巣鴨移転では120坪に拡大された。20年間で売り上げも約30倍にアップ。現在は店舗2階に設置したイベントスペースで格闘技・プロレス関連のトークライブや握手会を開催し、記者会見場としても提供している。「巣鴨には後楽園ホールがないので、1度お客様に足を運んでもらいたい。場所の周知にもなる」と年間90回ほどのイベントも続けてきた。

中古グッズという「過去」を販売する闘道館には“継承”という大きなテーマがある。泉館長は言う。

「グッズを通じて影響を受けたレスラーのすごさや記憶がよみがえるもの。ただリアルタイムで見ていないレスラーでも、すごさは分かるし、リスペクトを持っている下の世代の方はいます。そのグッズに込められた魅力やリアルタイム世代の方の気持ちを受け止めた評価を我々が表現し、次の世代に渡していくのが役割だと思っています」

2年前にはメキシコに出張し「ルチャ万博」と呼ばれるイベントに出店した。泉館長は海外のプロレス・格闘技マニアと触れ合う機会を得て、日本のプロレス文化の広がりに手応えを感じたという。

「スマホの翻訳機能で会話しましたが、タイガーマスクや日本のプロレス文化に理解があって驚きました。会社全体の売り上げも海外分が10%。うちのサイト視聴は海外の方が全体の30%もあります。イタリア、フランス、英国、オーストラリアでうちの通販を利用してくれる方もいるのです。日本の格闘技・プロレスは誇れるぞ、ということをこれからも世界と共有したいですね」

世代と国境を超越し、日本の格闘技・プロレス文化を共有する「未来」が、泉館長の頭にある。「この文化を残したい。全国のマニアの方と一緒に、一要素として(闘道館が)必要あると思ってやっています。需要がなければ、それで終わりですが」。80年代から都内で出店されてきた格闘技・プロレスのグッズ専門店は、この20年間で閉店やオンライン販売のみの業態に変わっている。「好きを通す」ことが難しい日本で、闘道館は「つなぐ」信念を貫きながら存在し続けることだろう。「誰も10年後は分からないですが、何か役割があれば、我々が変わっていけばいいんです」。格闘技・プロレスファンの胸にレスラーたちの記憶と歴史が残る限り、闘道館の未来は続いていく。【藤中栄二】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)


◆泉高志(いずみ・たかし)1975年(昭50)11月27日、大阪・吹田市出身。早大を経て帝国データバンクに入社。起業を考えて1年半後に退社し、25歳の時、東京・文京区の水道橋に「闘道館」を設立。05年からテレビ東京系の「開運!なんでも鑑定団」鑑定士としても活躍。幼少時代からプロレス、格闘技ファンであり、学生時代は自らも格闘空手の大道塾で鍛錬した。好きな格闘家は前田日明。家族は夫人と2男1女。180センチ、70キロ。

店内で記念撮影用に設置されている闘道館ベルトを手にする闘道館の泉館長
店内で記念撮影用に設置されている闘道館ベルトを手にする闘道館の泉館長
店頭に並ぶ数多くのマスクの前に立つ闘道館の泉館長
店頭に並ぶ数多くのマスクの前に立つ闘道館の泉館長