わが子に自分と同じ道を歩んでほしい、自分が成しえなかった夢をかなえてほしい-。そんな思いは、時代が移り変わろうと、角界では不変のようだ。昨年初場所限りで引退した元小結豊真将の立田川親方(34=錣山)の断髪式(1月30日=東京・両国国技館)を取材しあらためて思った。

 断髪式の前に行われた数々の余興の1つ、自分の子供に稽古をつける場面で、立田川親方の目は時に厳しく、時に目元を一直線にした柔和なものだった。実はその日朝、自宅を出発する時もまだ、2人の息子は浮かぬ顔だったという。「今朝も、まわしを着けるのも嫌がっていてね」と心配で仕方なかった。

 それが、いざ国技館入りし、まわしを締め、土俵に上がると、父の不安は一蹴された。やはり、かえるの子はかえる-。美しい所作など誠実な土俵態度で人気を博したのが豊真将。引退の際には、亡くなった当時の北の湖理事長(元横綱)も「協会にとっても宝」と評したほどだ。土俵で見せた愛息の所作など一挙一動が、写し絵のように見えたのだろうか。「息子たちがよく頑張ってくれた。あんなに嫌がっていたのに…。土俵に上がったら堂々と、四股も、ちりちょうずもやってくれた」。整髪を終えた立田川親方は、長男真輝くん(4)、次男晃誠くん(2)を抱き上げ、うれしそうに話した。

 愛息の将来に思いもはせた。「これをきっかけに、相撲好きになってくれたらと思います。10年、12年後に相撲界に入ってくれたら。相撲クラブに入れようかなとも思います」。夢はしこ名にも及び「(2代目)豊真将とか、3代目寺尾とかでも」。わが子の成長が楽しみのようだ。

 初場所後の白鵬杯では、横綱白鵬の長男で小学1年生の真羽人(まはと)くん(7)が“国技館デビュー”を果たした。わが子をスマホのカメラで追う父親白鵬の姿は、何ともほほえましかった。その初場所では、元関脇琴ノ若の佐渡ケ嶽親方の長男、琴鎌谷が番付デビューを序ノ口優勝で飾った。「琴ノ若」はもちろん、祖父の「琴桜」襲名の夢も背負っての土俵が続く。そして「就職場所」とも呼ばれる、なにわの春場所も間近だ。送り出す側の、親が抱く夢、期待、不安、希望…。さまざまな思いを背負った新たな息吹が、角界に新風を吹き込む。【渡辺佳彦】