「師匠に怒られるんで」。熱海富士が貝になっている。

所属する伊勢ケ浜部屋では、東前頭17枚目の尊富士が両国以来110年ぶりの新入幕優勝を目指している。

熱海富士も初場所こそ負け越したが、その前は2場所連続で優勝争いを繰り広げた人気実力派力士。尊富士とは稽古を共にする仲でもある。横綱照ノ富士の休場や一門の宮城野部屋の騒動もあり、部屋がピリピリするのは仕方ないにしても、序盤戦で2大関を破り、13日目には勝ち越し。勝ちコメントすら断られ、生の声を伝えられないのは取材する立場としてもつらい。

意を決して、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)に何とかならないか聞いた。答えはこうだった。

「しゃべるなって言ってる。余計なこと言わないで相撲に集中しろ、そんな時間はないだろって。『集中したい』って本人も言うからね。余裕ないから。相撲もあんまりいい相撲で勝ってないから。相撲(場所)終わったらいいよ」。

相撲に集中させたいという師匠の親心からだった。思いに応えるように熱海富士もしっかりと勝ち越した。本来「テレビに出たい」という陽キャだけに、場所後にはたまりにたまった話を聞かせてもらいたい。【阪口孝志】

熱海富士(手前)を寄り切りで破る若元春(撮影・和賀正仁)
熱海富士(手前)を寄り切りで破る若元春(撮影・和賀正仁)