まわしを取られては勝ち目は薄いから、貴景勝は朝乃山に上手を取らせまいと徹底していた。それが立ち合いの鋭い出足、圧力に表れた。頭から来ると予想した相手に当たり勝って、その後に引くのも計算のうちだったろう。

一方の朝乃山も、当たりは悪くなかったが足がそろってしまった。だからその後の足の運びも悪い。貴景勝の思惑とは裏腹に朝乃山からすれば、いきなり引いてくるとは思わなかったのだろう。引かれて戸惑い、なすすべもなかった。好取組もあっけなく勝負がついたが、朝乃山からすれば立ち合いの厳しい押し相撲相手に、いい勉強になったはずだ。

10勝で大関復帰を果たしたい貴景勝とすれば、勝ちたい気持ちが強くなれば引く相撲も出てくるだろう。ただ、勝ち越すのも10番勝つのも優勝するのも、一番一番の積み重ねだ。それを忘れなければ、おのずと結果はついてくる。(高砂浦五郎=元大関朝潮・日刊スポーツ評論家)