スピードにうまさも兼ね備えた錦富士が、入幕から2場所目で優勝争いに参戦しています。相手によって立ち合いを変える器用さもあります。前日の若元春戦は頭で当たり、この日の千代翔馬戦は上手を狙い左を差しに行きました。勝負のポイントはこの後です。四つに組んで一瞬ではありますが相手の下手を切りました。こうすると前に出やすくなるんです。この勝機を逃さず休まず寄って出て2敗を守りました。

相撲は個人競技ですが部屋単位の「団体戦」の良さもあります。テレビ中継を見ていると分かりますが、伊勢ケ浜部屋付きの安治川親方(元関脇安美錦)が錦富士や熱海富士と花道奥のモニターを一緒に見て、取組を振り返る場面があります。アマ相撲も経験し技術面でたけている親方から、アドバイスを送られているのでしょう。「チーム伊勢ケ浜」として理想的な部屋一丸の姿を感じます。

優勝争いで北勝富士とともに1差で玉鷲を追う後半戦です。横綱休場、大関陣不振の中、フレッシュな錦富士の土俵が楽しみです。優勝争いは精神的にも落ち着いて、今風に言えば「ゾーンに入っている」玉鷲が有利と見ます。「1番も星を落としてはいけない」という強い気持ちを持った人が最後に笑うと思います。(日刊スポーツ評論家)