阿炎の初優勝は、勝負度胸の良さと突き押しが最大限に発揮される身体能力の高さがもたらせました。

四つ相撲に比べ攻撃のバリエーションが少ない押し相撲ですが、阿炎の場合は普通の押し相撲とは違います。それは187センチの身長と、手足の長さを生かしたものです。普通、押し相撲は押した後、背中の方に腕を引きますが、阿炎の場合は手が長いから体の前面の回転で押せます。それも高速です。さらに懐も深いから相手は引き込むのが難しい。もっと厄介なのは、変化とかいなし、横の動きも速いから相手は完全に翻弄(ほんろう)されます。

高安との優勝決定ともえ戦で見せた、ここぞという時の変化。それを見せた後の貴景勝戦で迷わず出た突っ張り。番付下位で精神的に一番楽な状態で臨めたのも、阿炎の長所が最大限に発揮された要因です。取組前の表情に「やってやるぞ」という気の強さが見えましたが、その一方でしっかり作戦も計算して取れる冷静さもあり、パズルのピースが全て、うまく組み合わされての優勝だったと思います。世代交代の時間が長すぎる相撲界ですが、豊昇龍らとともに、次期大関候補に阿炎も名乗りを上げてほしいですね。(日刊スポーツ評論家)