横綱照ノ富士(31=伊勢ケ浜)が、3場所連続全休からの復活優勝を果たした。1差で迎えた2敗の関脇霧馬山との直接対決。寄り切りで制して13勝目を挙げ、千秋楽を残して6場所ぶり8度目の賜杯を決めた。3場所以上続けて全休して優勝した横綱は3人目。1989年初場所を制した北勝海(現八角理事長)以来34年ぶりの復活劇となった。

強い横綱が帰ってきた。1年ぶり8度目の優勝を飾った照ノ富士は「素直にうれしいです」と実感を込めた。両膝のケガから復活を果たし、願っていた結果を手にした。「10月に手術をして1日、1日を無駄にしたくないという思いでやっていました。頑張ってきてよかった」とかみしめた。

大関昇進を確実にしている霧馬山を盤石の攻めで寄せ付けなかった。「本当に力をつけてきた」という同じモンゴル出身の27歳の挑戦を、がっぷり四つに組んで受け止めた。チャンスとみるや、逃さず土俵際まで持っていき寄り切った。

昨年9月の秋場所で両膝の状態が悪化して途中休場。特に右膝は、骨が完全にずれるほどのダメージを負っていた。翌10月に両膝の手術を受けたが「人工関節が必要」と言われるほどの症状は重かった。痛みがゼロになるわけではなく「将来を考えたら、今でもやめたいよ」と漏らしたこともあった。

2代目若乃花の間垣部屋にいた頃からの縁で、照ノ富士が信頼する伊勢ケ浜部屋の呼び出しの照矢は「手術しても決して完全に治るわけではない。少しでも状態が戻ればと思ったんでしょう」と代弁する。休場中も万全にはならない膝と向き合い、トレーニングを怠らなかった横綱の姿が印象に残る。下半身の踏ん張りを少しでも補うため、大きな筋肉の間の細かい筋肉まで鍛えるメニューを実践。「自分の相撲に必要な部位を鍛えるため、あんなにこだわってやっている力士は他に見たことがありません」。再起をかけて奮起する日々も「いつもと変わらない横綱。落ち込むことはありませんでした」という。そんな日々の鍛錬があったからこその優勝だった。

手術をするか否か、出場をするか否かも、常に師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)と相談しながらやってきた。「親方、おかみさんがいないと今の自分はいない。本当に1つの優勝では返せないくらい恩を感じています」と感謝の言葉を並べた。残すは千秋楽の大関貴景勝戦。「まだ1日ありますから。良い千秋楽を迎えられるように」。引き締まった表情のまま、余韻に浸ることなく気持ちを切り替えた。【平山連】