名古屋場所前に注目していたのは照ノ富士でした。横綱経験者として、覚悟を持って出場するだろうと想像できました。さすがに結果を残さないと引退を考えるだろうと。それが幕を開ければ初日こそ大丈夫かな? と心配だったけど2日目からは、怖がらずに前に出ていました。「ケガを抱えていたら、こういう相撲を取るんだよ」と後輩に伝えるような土俵でした。さすがに15日間、相撲を取るのは3場所ぶりだから、後半戦は膝や体と相談する毎日だったでしょう。稽古不足によるスタミナの問題に加えて、勢いのある役力士との対戦ばかり。そんな中で、よく3敗で済んだと思います。横綱の責任は十分に果たしたと思います。
横綱になって皆勤したのは半分以下で、休んでは出るの休場の多さが指摘されています。昔だったら引退問題が取り沙汰されるところですが、今は時代が違います。それが許される時代です。甘えてもいいと思います。ましてや大関から序二段まで落ちて、もがき苦しんではい上がってきた照ノ富士です。一人の人間、武士としての生き様を周囲は知っています。そこは温かく見守ってほしい。
同じことは貴景勝にも言えます。今場所は勝ち負け関係なくファンの胸を打つ土俵の連続でした。私たちの時代は「武士のように生きろ」と教えられ大関から落ちたら潔く身を引くことが力士としての生き方でした。そんな生き方もいいけど、番付降下のない横綱が負けが込んで追い込まれて引退した私の経験から言えば、負けたまま土俵を去ってしまっては、つらい思い出しか残らないんです。だから、つらい思いはしてもらいたくない。少しでも長く現役でいい思いをして、退く時は相撲を好きなままでいてほしい。入門以降、苦しい中で頑張っているのはファンも知っています。それも武士としての生きざま。その姿勢は最後まで貫いてほしいと思います。
さて、独自で選ぶ今場所の三賞です。殊勲賞は隆の勝、敢闘賞は隆の勝と美ノ海、技能賞は平戸海です。大の里ですか? 私からすれば実力通りなので、あげるまでもありません。あと「カムバック賞」を若隆景にあげたいと思います。
最後になりますが、今場所をもって3年間、務めた日刊スポーツの評論を退くことになりました。自分を育ててくれた相撲の神様に恩返ししたい-。就任時にそんな思いを語りました。協会に残ることだけが恩返しではないと、各種メディアを通して技術論を中心に活動してきました。決して横綱目線でなく、その力士の地位に応じて、自分がその番付にいた目線で評論することも出来ました。
実は父(元大関貴ノ花)からは遺言で「お前が持っている技術は誰もまねできない。講演でも評論でもいい、相撲を伝えてほしい」と言われました。その言葉を胸に、プロでも一般の人でも分かるような技術論を伝えられたらという気持ちで、評論させていただきました。お笑いタレントの上田晋也さんから「日刊のコラムすごく分かりやすい」の言葉をもらったり「日刊のコラムで、こんな力士がいたんだって知りました」と一般のファンから言われたり、そんなことが励みにもなりました。相撲に関しては、いいかげんにできない性分は生涯続きます。これからも相撲愛を胸に、人生を生き続けることをお約束して、ペンを置かせていただきます。3年間のご愛読、本当にありがとうございました。(日刊スポーツ評論家)

