[ 2014年6月26日7時54分

 紙面から ]ぼうぜんと遠くを見つめながらサポーターへあいさつに向かう香川。左は大久保<W杯:日本1-4コロンビア>◇1次リーグC組◇24日◇クイアバ

 日本代表FW香川真司(25=マンチェスターU)が、力を出し切れずに初のW杯を終えた。85分の出場で5本のシュートを放つも1次リーグ3戦で無得点。背番号「10」の重圧と、世界の壁に負けた。ショックで表情を失い「これで終わりだと思うと寂しかった」と言葉を絞り出した。29歳で迎える18年ロシア大会で、この悔しさを晴らすしかない。

 夢にまで見たW杯は、残酷だった。どれだけ時間がたっても香川の心は、真っ白なまま。耳をふさぎたくなるほどのコロンビアサポーターの大歓声も、はるか遠くから響く音のように聞こえた。終了から30分以上が過ぎた取材エリア。報道陣が殺到しても、目はうつろ。表情まで失った。質問から少し時間を置いて、ゆっくりと力のない言葉を絞り出すのがやっとだった。

 「今すぐ振り返るのは難しいです。W杯を目標にやってきて、1勝もできなかった。すごく悔しいし、これで終わりだと思うと寂しかった。大会で(力を)出し切るメンタリティー。チームとしての強さ、経験を含めて足りなかった」

 悔しさを晴らすために、ここにたどり着いた。10年大会は登録外選手として同行。成長するために、大会後すぐC大阪から海を渡った。日本が恋しくなった時、壁にぶち当たって苦しんだ時。ドルトムントからデュッセルドルフへと続く高速道路を、音楽をガンガンにかけて走った。「ここで活躍すればビッグクラブに買われる。ヨーロッパで認めてもらわないと、世界でも勝てない」。そう言い聞かせていちずに夢を追った。

 重圧と過度の緊張から、大会中は悩み続けた。ギリシャ戦で先発から外れるなど3戦無得点。この日は前半から果敢に得点を狙い、後半39分には左足シュートがわずかに枠を外れた。その直後に交代。大の字になって夜空を眺め、香川のW杯は幕を閉じた。

 「この4年間の中身は濃かった。まだ(4年後は)分からないけれど、自分のキャリアは続く。このW杯にかけてやってきたので、気持ちの切り替えは難しいし、自分の中で整理ができていない。でも、ここで引退するわけではない」

 大きな挫折が、また4年後への糧になる。このまま、夢をあきらめるわけにはいかない。神戸市立乙木小6年の時のこと。教室の黒板の前で、担任だった中川絵里先生から「あんたJリーグで満足しとったらアカンで。世界に行かなアカンで」と言われたことが、忘れられない。初めて挑んだ世界の壁。それは、想像以上に高く、険しかった。

 「声援や期待をすごく感じました。こういう結果になって申し訳ないです」

 涙は必死にこらえた。選手として成熟期を迎えて臨む18年ロシア大会。夢の続きを見るために、必ずまた戻ってくる。【益子浩一】