[ 2014年6月26日8時1分

 紙面から ]試合終了後、じっとグラウンドに座り込む大久保(撮影・狩俣裕三)<W杯:日本1-4コロンビア>◇1次リーグC組◇24日◇クイアバ

 天国へささぐゴールは、遠かった。日本代表FW大久保嘉人(32=川崎F)は、肩を落としたまま動けずにいた。1トップで先発しフル出場。欠かせない存在になった。前半9分に鋭い切り返しからシュート。同36分にはオーバーヘッド、後半21分にも内田のクロスをダイレクトで合わせた。全3試合に出場し無得点。欲しかった得点は、ついに奪うことはできなかった。

 「戦う姿勢を見せたかった。勝たないと先がないということは分かっていたから。監督からは『ありがとう』と言われました」

 希望-。つないでくれたのは、昨年5月12日に他界した父克博さん(享年61)だった。肝がんで長く闘病生活を続けてきた父の口癖は「1番になれ!」「あきらめるな!」。強い薬の副作用で幻覚症状を起こした父は病院内で暴れ回り、鉄格子の付いた部屋に入れられた。そんな父の車椅子を押し、息を引き取るまで見守った。遺書に記してあった「代表になれ」。あの紙切れがなければ、再びW杯に出ることはなかった。

 苦悩-。欧州組を交えた代表は、10年W杯以来。ぶっつけ本番に近く、フリーになってもボールは来なかった。W杯に立った喜びの裏側で、もがいていた。

 「仕掛けた時に(サポートする)人がいない。選手の距離が遠かった。紅白戦もうまくいかない。俺は急に(代表に)入ったから、言うようにはしたけれど、俺が言いすぎることで、みんなが4年間やってきたことを崩したくはなかった」

 もう少し早く、ザッケローニ監督が代表に呼んでくれていれば…。もっと、日本の戦力になっていた。

 未来-。やり残したことが次へ進む活力になる。4年前は代表引退を示唆したが、今は違った感情がある。「また代表に来たいね。次のW杯は36歳。まだやれる」。2度のW杯で決めることができなかったゴール。充実感の中に少しの後悔を残し、大久保はブラジルを後にする。【益子浩一】