日本ではSNSで多くの芸能人が国会で審議中の検察官定年延長法案に異議を唱える投稿をしたことに対して芸能人の政治的発言に対する論争が起きているようですが、ここアメリカではセレブの政治的発言をタブー視する風潮はありません。

大物俳優ロバート・デ・ニーロやメリル・ストリープが公然とトランプ大統領を批判しているだけでなく、テイラー・スウィフトやレディー・ガガ、ビヨンセ、ケイティ・ペリーら若者に人気のアーティストたちも、選挙では自身が支持する候補を表明するなど政治的発言をすることは珍しくありません。また、環境問題や女性の権利、人種差別など様々な社会問題についてSNSで発信することも多く、実際に抗議デモに参加するスターもいます。

そんなセレブたちは、5月25日にミネソタ州ミネアポリスで起きた白人警察官による黒人男性殺害事件を巡っても、抗議の声をあげています。

テイラー・スウィフト
テイラー・スウィフト

無抵抗のジョージ・フロイドさんが警察官に首をヒザで地面に押さえつけられて死亡した痛ましい事件が発端となり、全米で抗議デモが起こる中、映画「Ray/レイ」(2004年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックスは、ミネアポリスで行われた抗議デモに参加。

また、アリアナ・グランデも30日に「ブラック・ライブス・マター(直訳は「黒人の命は大切」で人種差別抗議運動を示す)」と書かれたメッセージボードを手に、マスク姿で恋人と一緒にロサンゼルスで行われた抗議デモに参加したことをSNSで報告しています。このデモには他にもマイケル・ジャクソンの長女パリス・ジャクソンやエミリー・ラタコウスキ-、ホールジー、ジョン・キューザックら多くのセレブが参加しているのが確認されています。

SNSでもジャスティン・ビーバーやジョン・ボイエガ、キム・カーダシアン、ケビン・ハートら多くのセレブが抗議の声を上げており、ビヨンセは「白昼に(フロイドさんが)殺害されるのを目撃しました。打ちひしがれ、同時に嫌悪感を覚えています。無意味な殺人はもうたくさん。有色人種が人間以下の扱いを受けるのを見るのももうたくさんです」と語る動画を投稿。また、ピンクも「黒人の命だけでなく、全ての人種の命が等しく大切と白人が訴えることにうんざりする」と投稿し、「白人は危険な目にはあっていない」と意義を唱えて黒人の人権に寄り添う力強いメッセージを発信しています。

抗議の声はスポーツ界にも広がっており、新型コロナウイルスの影響で試合に出られないNBAの選手たちもデモに参加しているほか、社会問題についてめったに発言することがない元NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンも今回の件に関しては、「深い悲しみで胸が痛く、純粋に怒っている。根深い差別と暴力に対して声をあげる人たちと共にいる」とのコメントを発表しています。

一方で、フロイドさんが殺害された一部始終を撮影した動画がSNSで拡散されたことに端を発した、全米各地でのデモ隊の暴走に心を痛めているセレブも。フロイドさんの死にショックを受けていると語り、抗議デモにも参加したパリスはフロイドさんが殺害される動画をリポストすることに苦言を呈し、「安易に拡散することは許されるべきではない。(フロイドさんの死を)尊重すべき」と投稿しています。

また、トランプ大統領が「略奪が始まれば、銃撃が始まる」と暴力を助長しかねない投稿をしたことに対しても、スウィフトが「大統領になってからずっと白人至上主義や人種差別主義の火種をまいていたくせに、ずうずうしくも武力で脅して道徳的に優れているふりをするの? 11月の選挙であなたを辞めさせる」と猛烈抗議し、ガガも「トランプは大統領として失格なのはわかっていたこと。人種差別者で愚か者」などとインスタグラムに投稿しています。コロナ禍によってさらなる分断も起きており、11月の大統領選を前にトランプ大統領とセレブの対立も深まっています。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)