「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下エブエブ)で今年のアカデミー賞助演男優賞に輝いたキー・ホイ・クァン。「私の旅はボートから始まりました。難民キャプで1年過ごしました。そしてなぜかハリウッドの最高の舞台にたどり着きました。映画の中でしか起こらないと言われた物語が、私の身に起こっているのが信じられません。これがアメリカンドリームです!」とスピーチし、世界中の人々を感動させたことは記憶に新しいところですが、1度は表舞台から姿を消したクァンの見事な復活劇は大きな話題になりました。

アカデミー賞助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(ロイター)
アカデミー賞助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(ロイター)

ベトナム戦争の混乱から逃れてアメリカにたどり着いたクァンは、80年代にスティーブン・スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」に抜擢されて子役として映画デビュー。翌85年には日本でも人気を博した「グーニーズ」で主人公の少年の1人を演じて人気子役となりました。

華々しいキャリアをスタートさせたものの当時のハリウッドではアジア系が演じられる役は少なく、90年代前半に裏方に転身したクァンでしたが、夢を諦めきれず20年後に「エブエブ」で俳優に再挑戦。その演技力が高く評価されて今年の賞レースを席巻し、オスカー俳優に上り詰めました。

再挑戦を決めたきっかけは18年公開の「クレイジー・リッチ!」でアジア系俳優が活躍する姿を目の当たりにしたことだったと言いますが、ハリウッドには他にも様々な理由から1度は第一線から退いたものの、後に見事にカムバックした俳優や女優がいます。

「ザ・ホエール」での演技が評価されて今年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーもその1人です。フレイザーは、「ハムナプトラ」シリーズなどで90年代後半から2000年代にかけて人気を博したものの、この十数年はメジャー映画から姿を消していました。

アカデミー賞で主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザー(AP)
アカデミー賞で主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザー(AP)

5年前のインタビューで、03年にゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会の元会長から性的暴行を受け、その時の心身的ショックからうつ状態になり、それが原因で表舞台から退かざるを得なかったと告白していたフレイザーは、「ザ・ホエール」で増量して体重272キロの主人公を演じて第一線に復帰。昨夏に行われたベネチア映画祭では、6分間に及ぶスタンディング・オベーションを受け、最後はオスカー獲得で見事な復活を成し遂げました。

他にも、結婚を機に90年に公開された「アイリスへの手紙」を最後に女優業から引退したジェーン・フォンダは、15年後にジェニファー・ロペスと共演した「ウェディング宣言」で女優復帰を果たし、85歳になった今年も「エイティ・フォー・ブレイディ」に出演するなど第一線での活躍を続けています。また、同じく結婚を機に14年に公開された「ANNIE/アニー」を最後にスクリーンから遠ざかったキャメロン・ディアスも、後の引退宣言を撤回し、来年公開の「バック・イン・アクション」で女優復帰したことが話題になっています。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)