たくさんの人の前で話す時も、自分らしく、別人にならないようにする、というのが、私がこのコラムで度々お伝えしているトークのコツ。とはいえ、何か原稿があると、“しゃべる”よりも“読む”になりがちです。どうしたら朗読ではなくトークになるのか、それには「原稿書き換え戦術」がおすすめ。トーク編第49回「書き言葉を話し言葉に変換する」です。

文化放送社屋前の五戸美樹(2019年9月)
文化放送社屋前の五戸美樹(2019年9月)

■「書き言葉」と「話し言葉」とは■

日本語は「書き言葉」と「話し言葉」がかけ離れています。小学校低学年で「書き言葉」を習い、作文の添削を受け、徐々に書き言葉をマスターしていきます。話している時は「昨日さー、お母さんと花火に行ったんだよね」と話す子が、作文では「昨日、母と花火に行きました」と書く…日本人にとっては、ごく当たり前なことですが、これが日本人の“人前トーク”を苦手にする一つの理由だと私は考えています。

■「読む」と「話す」の違い■

大勢の人の前で話す時は、「書き言葉」と「話し言葉」どちらで話すべきでしょうか? 「読むこと」と「話すこと」は違いますね。「書き言葉」を声に出すのは、「読むこと」。それは「朗読」であり、「ナレーション」です。相手がどんなに大人数になっても、「話すこと」は「話し言葉」のほうが自然です。

■それぞれの単語を解説■

書き言葉は、「語尾」と「接続詞」に特に多く、文章の終わりは「です」「ます」「でした」「ました」などになります。話し言葉の場合は、「です」「ます」で終わることがほとんどありません。「ですね」「ますね」「~したんですよ」などになります。書き言葉の接続詞は「また」「や」など。話し言葉なら「で」「それから」「~ですとか」などになります。

テレビ東京によるトークレッスン取材風景
テレビ東京によるトークレッスン取材風景

■ラフに見える話し言葉■

一見すると、「ですね」「~ですとか」といった話し言葉は、非常に軽く見えます。生徒さんで経営者の方に「こんなラフな言葉遣いでいいんですか?」と聞かれたことがあります。逆に、「です」「ます」のほうが重みがあり、正式できちんとしている感じに見えます。しかし、それは見た目の印象です。視覚の印象と聴覚の印象はまるで違います。

書き言葉が “正しそう”に見えても、しゃべりでそれが“朗読”になってしまうと、聞いているほうは退屈です。話し言葉が視覚的に“ラフな感じ”に見えても、しゃべりが自然になるので、聞く方は耳を傾けてくれます。

■秘技!原稿書き換え戦術■

人前で話す時に、他の人が作った原稿があるなら、その文章を「話し言葉」に書き換える、あるいは自分で原稿を作るなら、はじめから「話し言葉」で書くようにする、そうすると本番は断然楽になります。私はこの方法を「原稿書き換え戦術」と呼んでいます。

ただ、ひとつ難しいのが、私たち日本人は、「話し言葉」を「書き言葉」に変換する方法は学校で習っていますが、「書き言葉」を「話し言葉」に変換する方法は、習ったことがない人がほとんどなのです。

■実践!挨拶を書き換える■

例を見ていきましょう。書き言葉での挨拶です。

「本日、当店にて、新商品『あいうえお』発表会見を14時より執り行います。皆様方におかれましては、お忙しいところ誠に恐縮ですが、お時間までのご来場をお願い申し上げます」

上記の例を話し言葉に書き換えてみてください。はじめは「換えてみてって言われても…」と迷われると思います。まずは助詞のあとに「ですね」を入れてみてください。語尾は「ですね」や「~ですけれども」に換えてみましょう。

「今日はですね、このあとこちらのお店で、『あいうえお』という新商品の発表会見を行うんですけれども、時間は午後2時からになりまして、お時間までに皆さん集まっていただけますと助かります。お忙しいところ恐れ入りますが、よろしくお願いします。」

このように書き換えることができます。

J-WAVE「GROOVE LINE」スタジオにて
J-WAVE「GROOVE LINE」スタジオにて

■ラジオのススメ■

はじめは、何をどう換えればいいのか考えることも難しいものなので、話し言葉がどんな言葉かを知るために、ラジオパーソナリティのトークを書き起こしするのがおすすめです。テレビは映像に合わせるため、書き言葉でナレーションをする場面が多くなります。ラジオは基本的にはずっとフリートークなので、話し言葉で話すことがほとんどです。話し言葉を文字化すると、いかに無駄な言葉が多く、長くなるかがわかると思います。話し言葉とはそういうものなのです。

また、自分で作った書き言葉の原稿を朗読してしまうパーソナリティもいます。両方聞くと、“話しているパーソナリティ”と、“読んでいるパーソナリティ”、どちらがより伝わりやすいか考察を深めることもできます。

【五戸美樹】(ニッカンスポーツ・コム芸能コラム「第73回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)