11月25日、歌舞伎座では来年2代目松本白鸚を襲名する松本幸四郎、10代目幸四郎を襲名する市川染五郎、8代目染五郎を襲名する松本金太郎、それぞれの名前での最後の公演の千秋楽となり、新橋演舞場では市川猿之助の骨折で代役に立った尾上右近を中心としたスーパー歌舞伎2「ワンピース」が千秋楽を迎えた。

 今年の歌舞伎界を振り返ると、新作歌舞伎の上演が例年以上に多かった。4月に赤坂ACTシアターで中村勘九郎・七之助兄弟が人気劇作家蓬莱竜太作・演出の赤坂歌舞伎「夢幻恋双紙 赤目の転生」、8月の歌舞伎座で染五郎・猿之助の「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」、野田秀樹作・演出、染五郎、勘九郎・七之助兄弟の「野田版 桜の森の満開の下」、10月の歌舞伎座は宮城聡演出、青木豪脚本で尾上菊五郎、菊之助らの「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」、10・11月に「ワンピース」が再演された。

 そのほか、歌舞伎とはなじみのない会場での新作歌舞伎公演も多かった。EXシアター六本木で市川海老蔵と寺島しのぶが共演した六本木歌舞伎「座頭市」、幕張メッセで中村獅童の超歌舞伎「花街詞合戦」、国立代々木競技場で染五郎と荒川静香、高橋大輔らフィギュアスケート選手とコラボした「氷艶HYOEN 破沙羅」、シアターコクーンで海老蔵の「石川五右衛門 外伝」と多彩だった。

 新作歌舞伎上演の中心となるのは30代、40代の人気歌舞伎俳優たちだ。「赤目の転生」は勘九郎が、「まほろば」などで知られる蓬莱作品にほれ込んで実現した。勘九郎は「当初は飲み会の席で持ち上がった話。蓬莱さんに常日ごろからアプローチしていました」と念願の公演だった。父中村勘三郎も同世代の野田との交流から「研辰の討たれ」などの傑作を生んでいる。 インドの国民的叙事詩をもとにした「マハーバーラタ戦記」は菊之助が3年前にSPAC公演「マハーバーラタ ナラ王の冒険」を観劇したことがきっかけだった。菊之助は「源平のような両家の対立構造があり、物語の壮大さに面白さを感じた」と、歌舞伎化を思い立ったという。そんな息子の思いを菊五郎が「菊五郎劇団は、新しいものに挑戦するのが得意という伝統がある。今回もその1つ」と後押しした。

 新作歌舞伎上演の背景には、従来の古典だけではなく、幅広い作品で多くの観客を呼び込みたいという俳優たちの思いがある。とかく、歌舞伎は「難しくて分かりにくい」と敬遠しがちな若い層を取り込むには分かりやすく、飽きさせない展開の新作が入門編として大きな存在となっている。来年も、人気漫画「NARUTO」が新作歌舞伎として上演されることが決まっており、数多くの新作が見られそうだ。【林尚之】