第52回紀伊国屋演劇賞の贈呈式が先日、東京・新宿の紀伊国屋ホールで行われた。1966年(昭41)の創立で、演劇賞としては最も古く、過去に多くの名優が受賞している。今回は団体賞が前川知大率いる「イキウメ」、個人賞は大竹しのぶ(60)温水洋一(53)のほか、佐川和正、森尾舞、舞台美術家の乗峯雅寛氏だった。

 かつては一流ホテルの宴会場だったが、数年前から紀伊国屋ホールに会場を移している。会場は変わっても、受賞者の喜びようは変わらない。「フェードル」「欲望という名の電車」の演技で、02年以来15年ぶり2回目の受賞となる大竹は「20歳の時に宇野重吉さんの演出で『青春の門』で初舞台を踏んで、芝居の楽しさを知りました。それから40年たって、全くその気持ちが変わらない自分がいます。もちろん、全然面白くないんだろうな、と思う舞台も、3回か4回くらいありましたけれど」と会場の笑いを誘った。

 2回目の受賞は仲代達矢、吉田日出子らがいるだけで、数少ない。「演技することは、喜び以外の何物でもない。『芝居オタク』とあだ名を付けられたりしたけれど、芝居をすることが、生きていることを実感する場所。演劇に命をかけるとまでは言えないけれど、命を吹き込むということに誇りを持って、一生懸命芝居をしていきたい」と、生涯女優の覚悟を示した。

 舞台「管理人」で初受賞の温水は人生初めての受賞とあって、ガチガチに緊張していた。88年に松尾スズキ主宰の「大人計画」に入り、竹中直人や明石家さんまの舞台などで演技を培ってきた。「舞台生活30年の節目に、くずダメ男の役に白羽が立って、受賞しました。舞台人として認められたんだと思うと、これまでずっとやってきて良かった」と感慨深げに話した。

 今年に入って、テレビ出演などの仕事が減っているという報道があったが、温水は「これからも舞台はやりたいけれど、なかなかそういうチャンスに恵まれない。できれば舞台は年1本くらいはやりたいけど、今年は舞台の話は1本もないんです。ぜひ、空いておりますので、本当に仕事をください」と、真面目な顔でアピールした。

 83年に故郷宮崎県から上京してきた温水が、東京で初めて舞台を見たのは紀伊国屋ホールだったという。「新宿に来て、『アルタがある』『これが紀伊国屋書店だ』と感激していたら、書店の前に行列があって、それが東京乾電池の公演の行列で、一緒に並んで、見たんです。その紀伊国屋ホールで受賞するなんて。タイムマシンがあれば、35年前の自分に会いに行って、『紀伊国屋演劇賞を受賞するから、頑張って』と言ってあげたい」。誇らしげに、心から喜んでいた。【林尚之】