TBS系主演ドラマ「ドラゴン桜」が高視聴率をマークした阿部寛(57)と、レギュラー出演するテレビ朝日系「ザワつく!金曜日」が好調の石原良純(59)の2人には、ある共通点があります。それが何だか分かりますか。

答えは、「熱海殺人事件」「蒲田行進曲」で知られる劇作家つかこうへいさんの指導を受けていたことです。1970年代に演劇界で大ブームを巻き起こしたつかさんは、「蒲田行進曲」で直木賞を受賞した後、82年に演劇活動をいったん休止しました。7年後の89年に活動を再開し、主宰する「北区つかこうへい劇団」で若手を育成する一方、草なぎ剛、富田靖子、広末涼子らを起用した舞台を上演していました。その中で、阿部と石原もつか門下生になりました。

阿部はモデル出身で、二枚目役でドラマに出演するようになりましたが、大きな壁にぶつかった29歳の時に、「熱海殺人事件」のオーディションを受けました。つかさん独特の「勝ち抜き演劇合戦」という稽古出場資格に始まり、稽古期間に勝ち残って役をもらうというガチンコのオーディションでした。

阿部は主役の木村伝兵衛部長刑事役を勝ち取りましたが、93年初演の「熱海殺人事件 モンテカルロイリュージョン」は客席数100人の小劇場でした。見に行って驚いたのは、木村部長刑事がゲイの棒高跳び選手で、大胆なスリットの入ったチャイナドレス姿で登場する場面もあったことです。つかさんは「阿部を食える役者にしてやる」と話し、俳優としての殻を破るため大胆に書きかえたのですが、それが阿部のターニングポイントになりました。

つかさんと阿部のタッグは10年ほど続きましたが、阿部は00年にドラマ「TRICK」で天才物理学者上田を演じ、04年には蜷川幸雄演出「近松心中物語」に主演するなど、俳優として大きくステップアップしました。阿部は「つかさんと出会って、自分のイメージを壊すことができた」と感謝しています。

石原は、元都知事で作家の石原慎太郎さんの息子、石原裕次郎さんのおいで、慶大在学中の82年に映画「凶弾」に主演してデビューしました。「石原プロ」に属してドラマ「太陽にほえろ」などに出演し、89年に退社後もドラマや映画で出演する一方、97年には気象予報士の資格を取得しました。

そんな時、もともとつかファンで、高校時代からつか舞台を見ていた石原がチケット予約のために北区つかこうへい劇団に電話したところ、たまたま事務所にいたつかさんが「そんなに好きなら、やってみるか」と誘い、97年に34歳で北区つかこうへい劇団に入団しました。98年に主演した「熱海殺人事件サイコパス」を見ていますが、汗だくの狂気をはらんだ演技がとても印象的でした。

石原は「つかさんには、主役をやる時は『絶対にブレるな。絶対に揺れるな』とアドバイスされた」そうですが、今、バラエティー番組で見る石原のブレることのない怒りキャラは、つかさんのもとで培われたのでしょう。演劇活動再開後のつかさんは新作執筆では苦労したけれど、俳優を育てる伯楽としては、いい仕事をしたといえるでしょう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

石原良純(17年3月撮影)
石原良純(17年3月撮影)
つかこうへいさん(08年6月撮影)
つかこうへいさん(08年6月撮影)