松本白鸚(79)がライフワークとしてきたミュージカル「ラ・マンチャの男」が来年2月の東京・日生劇場で大千秋楽を迎える。
市川染五郎時代の1969年、26歳の時に帝国劇場で初演して以来、幸四郎、白鸚と名前を変えながら、昭和、平成、令和と演じ続け、上演回数は1307回を数える。
スペインの作家セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」を原作にした舞台で、半世紀にわたり上演を重ねただけに、数多くの人が出演している。今回松たか子が10年ぶりに演じるドン・キホーテの想い姫アルドンザは初演で浜木綿子、草笛光子、その後に上月晃、鳳蘭ら、キホーテ家の家政婦は初演から3演目まで黒柳徹子が演じている。
草笛には何度もインタビューしたが、アルドンザ役の思い出の話になると、いつも熱くなった。というのも、日本初演前にブロードウェーでこの舞台を見て衝撃を受け、「私は絶対にやってみたい」と直訴してアルドンザ役を勝ち取った。 初演は浜らとのトリプルキャストだったけれど、70年の再演から73年の上演までは単独で出演した。しかし、77年の上演では役を外された。青天のへきれきだった。「なぜ私は降ろされなければならなかったのか。納得がいかなくて、悔しくて、悔しくて仕方がなかった。この時は、心の底から『こんちくしょう、こんちくしょう』だった。恨みは自分の腹におさめて、悔しさをバネに生きていくしかありませんでした」
降板から6年後、ミュージカル「シカゴ」に主演した。その時の相手役は皮肉なことに、草笛の後をうけてアルドンザを演じた人だった。遺恨のある人と顔を合わせて稽古をしなければいけない日々は苦しかったという。そんな時、ある演出家の一言が草笛を変えた。「ミュージカルは、自分が楽しくないと、お客さんに楽しさが伝わりませんよ」。以降は無心で稽古に励み、「シカゴ」の演技で芸術祭優秀賞を受賞した。「こんちくしょうの気持ちで頑張れたから、できたことだったと思います」。
草笛は88歳の今も現役でドラマ、映画、舞台に活躍している。「ラ・マンチャの男」の長い上演の歴史の中には、さまざまなドラマが秘められている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)




