春風亭一之輔(44)の文庫本「いちのすけのまくら」(朝日文庫)の評判がいい。週刊朝日で2014年から連載しているコラム「ああ、それ私よく知っています。」をまとめたもので、今年4月に単行本を文庫化して出版されたものだが、その解説を16歳の長男が書いている。

担当の編集者と解説を誰にするかを打ち合わせた時、一之輔がシャレで「うちの子供はどうでしょうか」と言ったら、「それ、いいですね」と、高校生の長男の解説デビューが決まったという。一之輔いわく、朝日文庫史上最年少? の解説だが、これが面白い。コラムでは3人の子供が登場することが多かったが、父のちょっと盛り気味の長男自身が出てくるコラムの内容に注文を付けたり、5人家族の陽気度ランクをつけるなら一之輔は「下から二番目」と予想し、父子2人で外食した時は話が弾まずに黙々と食べるだけと家庭内での一之輔の姿を明かすなど、遠慮のない息子ならではの視点が楽しい。すでに単行本を持っている人も、長男の解説を読みたさに文庫本を買う人が多いというのも納得だ。

落語家の子供が書いた文章といえば、文学座が毎月発行している「文学座通信」最新号に掲載された女優郡山冬果(51)の一文も良かった。郡山は昨年10月に81歳で亡くなった人間国宝の落語家柳家小三治さんの長女。6月に出演する文学座公演「田園1968」に絡めて、1970年代に高田馬場の駅近くの木造2階建てに住んでいた幼い頃のエピソードを書いている。父は「噺家」で弟子もいたため、両親は「親」である前に「師匠」と「おかみさん」、「家庭」である前に「修行の場」だったという。そのため郡山は近所のお店屋さんにお邪魔することが多く、可愛がってもらったという。立ち食いうどん屋のおじちゃんに温めてもらって飲んだ瓶のコーヒー牛乳や、家の向かいにあったラブホテルで小学生の兄たちが「ピンポンダッシュ」を企て、兄の命令で謝りに行った時にホテルのおばちゃんたちからお菓子をいっぱいもらった話など、昭和の良き時代の一コマが懐かしい。小三治さん、一之輔はマクラが面白いけれど、子供たちにもその血は受け継がれている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)