和歌山市の紀の川に架かる「六十谷(むそた)水管橋」(長さ約550メートル)の一部が今月3日に崩れ落ち、その原因に注目が集まる中、和歌山市内に住む大学時代の友人から久しぶりに連絡がありました。

「ずっと前から、鳥の数がすごいんよ。都会のハトとかと違うんよ。大きな海鳥やね」

現場近くをよく通る友人は、水管橋のアーチの上に飛来する海鳥の数が増えていることが気になっていたようです。和歌山市の尾花正啓市長は「老朽化そのものが原因とは考えにくい」と、鳥のフンなどで腐食が進んだ可能性に言及しています。なぜ崩落したのか? 友人からの“調査依頼”を受け、取材を進めてみると…。

まず、そもそも、鳥のフンが金属を腐食させるのでしょうか? 全国唯一の鳥類専門博物館「鳥の博物館」(千葉県我孫子市)の担当者は「鳥のフンにはアンモニアと酸が多く含まれており、酸性なので、金属の腐食を進めることはあります」と指摘します。

07年8月、米西部ミネソタ州ミネアポリスで起こったミシシッピ川に架っていた高速道路の橋が崩落した事故では、橋の設計自体の欠陥とともに、橋げたなどに長期間にわたり、たまったハトのフンが鉄骨を腐食させたことが、崩落の原因になったと指摘された例もあります。

「六十谷水管橋」は海から約6キロに位置します。友人が目撃する「海鳥」は魚を骨ごと消化させるほど強い酸性度をもっているとされています。ただし、大量に、しかも長期間という条件がそろわなければ腐食は進まないようです。

「鳥の博物館」の担当者によると、鳥の習性として「鳥は群れになりたがる習性があります。風があまり当たらない、エサが見つけやすい高い場所など条件のいい場所に集まってきます」。六十谷水管橋のアーチは海鳥にとって見晴らしのいい「絶好の休息の場所」になっていた可能性もあります。

水管橋はアーチ橋と水道管が一体となった構造で、アーチ型の太い部材から垂直の部材で水道管(直径約90センチ)をつり下げています。7個のアーチがあり、今回は中央のアーチ約60メートル部分が崩れました。

事故後、和歌山市が崩落を免れたアーチを小型無人機「ドローン」で現地調査した結果、崩落したアーチより1個北側のアーチで、橋のアーチと水道管をつなぐ「つり材」18本中4本に「異常な腐食による破断」(尾花市長)を確認しました。

鳥のフンによる腐食以外にも、台風や地震など自然災害で出来た傷が長年の振動により、広がった可能性や、背の高い水管橋が風の荷重を受けやすい構造だったため、老朽化が進んだ可能性を指摘する専門家もいます。

現在、紀の川の水中に落下したつり材が破断していたかどうかは分かっていませんが、今後、和歌山市は回収して、専門家とともに詳しく調べる予定です。

「海鳥のフン説」の“調査結果”を友人に伝えると、「もっと想定外のことがあるんよ」。何やら意味深です。

水管橋は紀の川の南側にある「加納浄水場」から北部へ水道水を送る唯一のルート。1975年3月に完成し、法律で定められた耐用年数は48年で、2023年に迎える予定です。15年度には橋脚上に位置する水道管の接続部分をワイヤでつなぐなど耐震工事を実施していました。

近年、紀の川の北部は開発が進み、人口が増加したそうです。友人いわく「かなりの水量やで。人口が増え、想定外の水量になったことも考えられる」。人口増加に比例し、送水量が増え、耐用年数を迎える前に老朽化が早まった? 和歌山市に取材してみると、担当者は「加納浄水所から送水された水は直接、各家庭に行くわけではなく、1度、山の高台にある配水池にためます。そこにから自然流下で各家庭に送水する仕組みです。送水量は以前と変わりません」。人口増加によって送水量が激増したことで、耐用年数に短くなった説には「関係ないと思います」と担当者。

第2弾の“調査結果”を報告すると、友人いわく「耐震工事したことで免震になっていなかったのでは」と熱弁します。

和歌山市内で私塾「個別指導イースクール紀の川ゼミ」を経営する友人は、生徒たちに水の性質も教えています。「耐震工事により免震が弱くなったかも。地震には強くなったけど、水量の振動が、想定以上にアーチに伝わる構造になったのでは…」。

市では、職員が水管橋を月1回目視点検していましたが、先月の点検では異常はなかったといいます。現在、専門家とともに、崩落の引き金となった要因を調査していますが、原因はまだ特定できていません。鳥のフン、構造上の問題、水量、さなざまな複合的な要因が重なったのか…。市の担当者は「少し時間がかかると思います」と話しています。

高度成長期に集中的に建設され、耐用年数の「寿命」を迎えている橋やトンネル、水道橋などのインフラに想定外が重なる恐れはあります。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

崩落した和歌山市の六十谷水管橋(撮影・松浦隆司)
崩落した和歌山市の六十谷水管橋(撮影・松浦隆司)