女優高橋ひかる(20)が新しいフィールドに踏み出す。初舞台となるNHKみんなのうたミュージカル「リトル・ゾンビガール」(東京・日生劇場、8月20~28日まで)に主演し、人間と心を通わせるゾンビの女の子・ノノを演じる。芸能界入りから8年。引っ込み思案だった少女は新しい自分に出会い、悩みながらも着実に成長を続けている。【遠藤尚子】

★芯の強さで新分野

初舞台にして初ミュージカル。高橋にとって大きな挑戦だ。「映像作品とは発声から違うし、表現の仕方も全然違う。ちょっとハラハラ、今はドキドキが膨らんでいる感じです」と心境を話す。

来る8月の上演に向け、昨年からボイストレーニングに取り組んでいる。

「自分の持ってる声を生かして、伸ばしていこうとしてくださる先生で。私は地声が結構低い方なので、下に響かせるような感じ? 先生には『横隔膜を下げて』とすごく言われます。自分らしい声の出し方から広げていって、最終的には役に合った、役に寄り添った声の出し方になっていけたらいいなと」

ゾンビのノノと人間のショウの友情を描くストーリー。3月の制作発表では、ショウを演じる共演の石井杏奈(23)らと歌唱パフォーマンスを披露した。堂々の歌声だったが、実際は緊張で震えが止まらず「もう、プルプルでした」と苦笑する。

「どうなるかひやひやだったんですけど、練習のかいあって何とか。リハーサルで皆さんと息を合わせていたのが大きかったと思います。このチームでよかったなというのはすぐに感じました。温かい空気と、安心感がありました」

歌うことへの本音を聞くと、「自信がないタイプでした」と明かす。その上で新分野に挑むところに芯の強さが見える。

「不安症なので、『どうにかなるよ』という言葉があまり好きじゃない。完璧にやりたいと思ってしまう、頭が固いタイプなので(笑い)。とにかく練習を積んで、その不安を頭からパッと飛ばせるくらいまで努力して、本番は肩の力を抜いて『なんとかなるさ』っていう気持ちを持てるように頑張りたいなと思います」

★バラエティー転機

14年「第14回全日本国民的美少女コンテスト」でグランプリを獲得。応募は通っていたダンススクール講師の勧めだった。

「小さい頃からモーニング娘。さんが好きで、ダンスも好きでした。うまいわけではなかったですけど、発表会で踊った時の自分が一番生きているというか、輝いている感じがして。そういうお仕事に就けたらいいなという漠然とした憧れがありました」

バラエティー番組でははじけんばかりの笑顔だが、元来引っ込み思案で、デビュー当初は「明るい印象を持たれなかった」という。

「どちらかというと、もの静かで、落ち着いているイメージ。当時のインタビュー動画を見ると、自分でも全然違うって思うくらい。何ででしょうね…でも、変わったのはバラエティーに出始めてからかもしれないです」

日本テレビ系「スクール革命!」で、アンタッチャブル山崎弘也ら芸人のむちゃ振りに応えるうちに、関西弁で怒るキレ芸がおなじみに。

「どうしたらリアクションがよく映るか考えてしまって、良くも悪くも染まっている感じはしますが(笑い)、自分の中の明るい高橋ひかるが少しずつ表に顔を出してきた感じです。特に、ザキヤマさんに引き出していただきました。『そんなことやったらひかるちゃん怒るよ~?』とか(笑い)。来た来た、ヤバイどうしよう~!? みたいなことを考えながらやってます。でも、楽しいです」

一方で、放送までは「生きた心地がしない」とも。

「『スクール革命!』はホームな感じがして、何をやっても大丈夫だっていう安心感がある。でも、あのキレ芸とかちょっと暴れる時だけは頭が真っ白ですね。実際に放送を見て、よかった~と。そこでやっと(息をついて)ふう、ですね。それまでは『いきすぎたかな?』『(編集で)切られるかな?』と考えてそわそわしてます」

★悩みながら着実に

ドラマは出演作を重ね、4月期はTBS系「村井の恋」に主演。3月からTBSラジオ「パンサー向井の♯ふらっと」で木曜パートナーを務めるなど仕事は順調だが、昨年迎えた20歳の心境を聞くと「悩むことがより増えました」と率直に語る。

「漠然とした焦りがあるのかもしれないです。学校を卒業して仕事に向けて準備できる時間が増えて、何でもできちゃうからこそ、あれもこれもやらなきゃみたいな。学校の合間に仕事をしていたバランスがガラッと変わって、それにだんだん順応してきたけど、でもついていけていない自分もどこかにいるような…」

葛藤する言葉の中に、実直な性格が垣間見える。

「これまでは、ドラマとバラエティーの2つが大きな主軸としてあった。今はラジオだったりモデル業だったり、いろんなことにチャレンジさせていただいているからこそ、もっともっと全力を注ぎたくて。あれもやりたいこれもやりたいと悩みながら、自分のふがいなさに直面しながら…っていう感じです」

息抜きの大切さ感じる出来事もあった。3月に行われた生配信企画「オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』」で共演した女優工藤遥、鳴海唯と食事をしたという。「共演者さんとご飯に行くのは、芸能界に入って初めてです」と笑みをこぼす。

「楽しかったです~! 女子会みたいな感じで(笑い)。みんなでわちゃわちゃしゃべって、あ、こういう感じなんだっていうのを経験させてもらいました。お仕事で出会った人たちですけど、プライベートの交友関係も最近すごく楽しんでます」

教師を演じた「村井-」では共演者の多くが年下だった。役が大きくなるとともに、考えることも変わってきた。

「少しずつ、共演者さんとの距離を縮めていけるようになりました。これまで座長という立場に立っても、先輩の皆さんに助けてもらうばっかりだった。自分もこれからは、という意識の改革みたいなものがあります」

デビューから8年を「あっという間ですね。怖いくらいに」と振り返る。

「でも、まだまだ気持ちは新人。10年になったら少しは変わるのかな。もっと勉強しなきゃいけないことばかりだけど、まだ知れること、チャレンジできることがたくさんあるんだろうなって思うと、ワクワクします」

悩みながら、1歩1歩。着実に歩みを進めている。

▼同じ所属事務所の先輩で、高橋が慕う女優小芝風花(25) ひかるちゃんは、女優のお仕事だけじゃなく、バラエティーやラジオにも引っ張りだこで、本当にすごいなと思います。疲れているはずなのに、会うといつも明るくて、こんなにかわいらしい容姿からは想像できないマシンガントークで元気をもらっています。いつも全力でお仕事に取り組んでいる真面目な子なので、ちゃんと息抜きできているか少し心配な所もあります。ご飯に行こうねと話しているのですが、まだ行けてないので、早く一緒においしいご飯を食べて楽しくおしゃべりしたいな。

◆高橋(たかはし)ひかる

2001年(平13)9月22日、滋賀県生まれ。14年「第14回全日本国民的美少女コンテスト」グランプリ。16年映画「人生の約束」で女優デビュー。主演ドラマは21年テレビ東京系「春の呪い」など。JFN系ラジオ「高橋ひかる Highway Runway」が放送中。18年からファッション誌「Ray」専属モデル。167センチ、血液型O。

◆ミュージカル「リトル・ゾンビガール」

人里離れた森で暮らすゾンビの女の子・ノノと、街で暮らす人間の男の子・ショウの間に芽生える友情を描く。ノノを高橋と熊谷彩春、ショウを石井杏奈、乃木坂46伊藤理々杏がそれぞれダブルキャストで演じる。