月組スター月城かなとが、波乱に満ちた生涯を送った米作家スコット・フィッツジェラルドを演じ、東上初主演する。作品は「ミュージカル THE LAST PARTY」。東京・日本青年館ホールで14~20日、シアター・ドラマシティ(大阪市)は今月30日~7月8日。

 月組へ移って1年余、本拠地で2作を終えた。今年「男役10年」を迎え、満を持しての東京主演だ。「責任感はすごく感じます」。まっすぐ前を見つめる。

 「ようやく、10年目で(男役として)スタートに立ったという感じ。10年やってきたからこそできるところもあり、以前だったら絶対にできないと思う」

 代表作「華麗なるギャツビー」をはじめ、米文学に足跡を残した作家スコット・フィッツジェラルドの生きざまを描くミュージカルは、スーツ物。ダンディーでクールな男の栄光と挫折、光と影を表現する。

 「実在の人物なので、いろんな資料を読みました。自分の生きてきた過程を作品にしてきた人。次第に大衆が求める物に、自分の人生や気持ちが追い付かず、消耗してしまった。演じていても苦しい」

 役に近づこうと、彼のクセをまねしてみた。

 「彼はすごいメモ魔で何でも書いていた。私は割と覚えておけるので、普段はあまり書かないんですけど。日々感じたこと、本を読んだ感想、気になった文章など、とりあえず書いた」

 役のリアルな感情を求めて演じるタイプ。「自分の中にある感情が、本当にその(セリフの)ような気持ちになる」と話す。今回の主人公へ共感もし、男性としてのリアルも求める。「今まで着たことのないトレンチコートもあるので」。劇団理事で専科スター、男役の象徴でもある轟悠の映像から着こなしを学んだ。

 「格好いい男の崩れた姿にも魅力が出る。ベースの格好よさは、10年間(男役を)やってきた自分を信じて、その後、陰っていく彼の人生の全部を表せたら」

 男役10年の自負。ここまでの転機のひとつは、昨年2月の組替えだった。

 「卒業してすぐ雪組。(雪組は)私の未熟な部分もすべて理解してくれ、育ててくれた。月組では1人の大人として迎えられた」

 仲間との接し方にも変化があった。後輩への目配りもできるようになった。組全体を考える上級生の自覚。雪組時代、同組前トップ早霧せいなから、すべてをさらけ出す強さを学んだ。

 「早霧さんの背中を見て育った。稽古場で、どんなに悩み、もがき、苦しんでも、その姿を隠さない人だった。言葉じゃなくて、稽古に臨む姿勢で引っ張る。舞台って、演じる人自身の『素』が出ると思う」

 心豊かに、健やかにあるためには、稽古場での仲間とのたわいない会話が、活力源。自分のコントロール法も確立した。「振り返ったら、10年目に(今作に)出あえたことが、財産になると思う」。難役の先にある未来も見える。視界は良好だ。

 月組の次作本拠地作は、大作「エリザベート」が控える。月城は、過去に多くが後にトップに就いた出世役の暗殺者、ルキーニ役に決まった。「すごい挑戦になる。次々に課題を与えてもらえることに感謝ですし、がむしゃらにぶち当たっていく思いです。常に挑戦する気持ちは忘れないでいきたい」と話している。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「THE LAST PARTY~S.Fitzgerald’s last day~フィッツジェラルド最後の一日」(作・演出=植田景子氏) 「華麗なるギャツビー」をはじめ、米文学に大きな足跡を残した作家、スコット・フィッツジェラルドの半生を題材にした作品。コンプレックスと野心、妻ゼルダ(海乃美月)への愛、友人ヘミングウェイ(暁千星)との確執を軸に、1940年12月21日、ハリウッドの部屋で急死した「時代の寵児」を描く。

 04年に宙組で大和悠河、月組で大空祐飛が宝塚バウホールで2組連続上演し、話題。06年の大空再演を経て、12年ぶりに復活する。

 ☆月城(つきしろ)かなと 12月31日、横浜市生まれ。09年3月に入団。雪組配属。13年「Shall we ダンス?」で、新人公演初主演。15年「銀二貫」で宝塚バウホール初主演。昨年2月、月組へ組替え。月組の主力スターとして、前作本拠地作ショー「BADDY」では、おちゃらけキャラを好演。身長172センチ。愛称「れいこ」。