TBS「林先生の初耳学」で、「女子アナ学」の講師を務める吉川美代子アナウンサー
TBS「林先生の初耳学」で、「女子アナ学」の講師を務める吉川美代子アナウンサー

TBS「林先生の初耳学」(日曜午後10時)で、元TBSアナウンサー吉川美代子氏(64)が女子アナ志望の女子大生を体当たり指導する「女子アナ学」が話題だ。「アナウンサーを目指すことはタレントになることじゃない」という直言には納得感がある。女性アナの草分けであり、今も第一線にいる氏に、今どきの女子アナ界はどう映っているのか。聞いてみると「覚悟がない」と明快だ。

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-2月に始まった「女子アナ学院」ですが、手応えは。

吉川 キー局やローカル局を1度落ちている学生なので、正直言うとかなりレベル的には難しいでしょうね。一方で、伸びしろを感じる子もいるんですよ。自分の魅力を分かっていないために、PRポイントがずれている。もったいない。私の経験が、具体的に役に立つのではないかと取り組んでいます。

-受講生は主に女子大生。吉川さんとのやりとりを見ていると、人と対面して話すことが苦手な世代なのかなと感じる場面も多いです。

吉川 スマホ世代なので、電話で話すよりメール。微妙な感情表現を声や言葉でなく、顔文字やスタンプでみんな記号化しちゃう。「おめでとう」という言葉でも、状況や相手によって、私たちは自然と声や言葉遣いを変えて話します。でも、若い世代は「おめでとう」言葉に込められた感情を顔文字や絵文字などで表現する。自分の声でいろんなことが表現できるのに残念です。

-77年入社の吉川さんは女性アナの先がけだと思うのですが、当時の女性アナに求められていたものと、今の違いは。

吉川 当時の女性アナの出番は、メインの男性のアシスタントか、天気予報。そもそもバラエティー番組に局アナが出るなんて考えられなかった。バラエティー番組のアシスタントどころかタレントと同じような対応を求められます。

-女子アナのタレント化は、やはりフジテレビの女子アナ3人娘(88年、河野景子、有賀さつき、八木亜希子)からですか。

吉川 そうですね。アナウンサーとしての能力と、それ以外に見た目のかわいさもタレント並みに求められるようになって、ガラッと変わりましたね。でも、かわいさだけじゃない部分もちゃんと持っていないと、40代、50代まで局アナとして仕事はできないと思います。

-かわいさだけじゃない部分とは、具体的にどういうことですか。

吉川 映らない部分の努力をどれだけしたかということ。例えば、仕事がない時に、発声や実況や朗読の練習をしたり、国会の予算委員会を見学に行ったり、裁判の傍聴をしたことがあるのかと。今は「バラエティーやりたいから、かわいくインスタに映ろう」とか、いかに人気者になれるかということにエネルギーを使っている。それならタレント事務所へ行けばいいんですよ。局アナでいる以上、大きな事件や災害があれば現場へ行ってリポートしなきゃいけない。その覚悟がない人があまりに多いと感じます。

-アナウンスの指導を見ていて共感したのは、吉川さんが「声を高くするのはダメ」と明確におっしゃっていたこと。フレッシュさ重視なのか、甲高い声や幼い声のアナウンサーが多いことに、個人的には苦手感があるので。

吉川 わざと声を高くして話したり、原稿を読む人がいるんですよ。女性アナウンサーの声は高いほうがいいという、意味のない信念ですかね(笑い)。今もそう教えるスクールや研修講師がいますし。地方にいくほどその傾向が強くて心配なんです。本来の声より高くするのが正しいと信じてしまった女子アナ学の生徒もいて、直すのが大変。現役のアナウンサーでもわざわざ声を作っている人もいますからね。

-海外ではどうなんですか。

吉川 幼さやフレッシュさなんて、欧米のニュースの世界では認めてもらえないです。そもそも、大学を卒業してすぐにいわゆる4大ネットワークのような放送局の局アナにはなれません。特にアメリカは、卒業後まずは地方の小さなローカル局で記者やリポーターなどをやって、数年から10年くらい実力を積んでからネットワーク局のオーディションを受けたり、スカウトされて入る。男女ともかなりのお年の方が要人へのインタビューをします。手元の資料見るときには堂々と老眼鏡かけたりしながら。かっこいいですよ。

TBS「林先生の初耳学」で、「女子アナ学」の講師を務める吉川美代子アナウンサー
TBS「林先生の初耳学」で、「女子アナ学」の講師を務める吉川美代子アナウンサー

-番組内で「入社1年目の」とわざわざアピールする自己紹介の慣習も謎です(笑い)。

吉川 アナウンサーだけですよね、そんなあいさつするのは。「新人なので何も分かりませんが」というエクスキューズなのかしら。分からないならやるなと言いたい(笑い)。命を預かるお医者さんや、人の資産を預かる金融関係の人など、どんな職業でも「新人なので…」なんて自分からは言いませんよね。プロとして仕事してお金をもらうって甘いことじゃないんだけど。

-ぶっちゃけ、若手女性アナたちのスキルやテクニックのレベルはどうなんですか。

吉川 ない。研修が終わったら発声練習なんて真剣にやらないです。新聞も読まない。でも、アナウンス力を磨いたところで、番組で使われるアナウンサーはかわいくて人気のある人だけ。評価されるのは見た目と若さだったりするのは残念です。また10年後を見据えて、やる気のあるアナウンサーを育てる余裕が局やアナウンス部にあるかどうか。私は入社6年目の春から報道をやりましたが、報道局長から「その前に半年間、政治部入って記者研修をしろ」と。私はかなり厳しく育てられました(笑い)。今はそういうことないですね。

-厳しく育ててもらえる時代だったんですね。

吉川 「俺の原稿を女に読ませるな」なんて言われた時代ですから。今は、新人女性アナの初ニュースを報道局中が見守って、終わったとたんにみんなが「できた!」って拍手してくれて、女子アナはうれしくて泣くの。全くバカみたいでしょ?(爆笑)

-吉川さんがそれだけ情熱をもって厳しく教えてくれていても、番組を見た人からは「怖い」とか言われかねません。割が合わない気もしますが。

吉川 いいんですよ。この年になると、怖いと思われようが何だろうが(笑い)。目的を持った子たちを引き受けたからには、先生として責任がある。AIにはない肉声というエネルギーで、思いや情報を伝えられるやりがいのある仕事です。教えたいことを教え切りたいと、その覚悟でやっています。

◆吉川美代子(よしかわ・みよこ)1954年、横浜市生まれ。早大教育学部卒。77年にTBS入社。33年間アナウンサーとして活躍し、TBSアナウンススクール校長を12年務める。14年に定年退職し、フリーに。趣味はジャズを歌うこと。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)