NHK連続テレビ小説「エール」(C)NHK
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【今週のせりふ】「古山君、赤レーベルではどんな曲を出したのかな。君は赤レーベル専属の作曲家だよね」

15日に放送されたNHK連続テレビ小説「エール」35話で、故志村けんさんが演じる作曲界の重鎮、小山田耕三が、新人作曲家古山裕一(窪田正孝)と初めて会ったシーンでのせりふです。まだ1曲も採用されていない主人公のプロ意識を問う近寄りがたい大物感の一方で、アイスを食べる時のどこか俗物っぽいおかしみ。志村さんだから表現できるオーラに圧倒されながら、以前「俳優業に興味がない」と語ってくれた人が放つ存在感をかみしめています。

「俳優業に興味がない」は、04年1月、ザ・ドリフターズ加入30周年の節目に志村さん(当時53)をロングインタビューした際に話してくれた言葉です。正確には「司会も、俳優業も、クイズ番組にも興味がない」。要するに、お笑い以外に興味がないということです。実際、演技の仕事を受けたのは、尊敬する高倉健さんの依頼で99年に出演した映画「鉄道員(ぽっぽや)」のみ。17歳でドリフの付き人になって以来、コントだけにこだわり続けた芸歴でした。

NHK連続テレビ小説「エール」(C)NHK
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「何千人って舞台で、お客さんの笑いをバーンって受けてきたコメディアンは、司会じゃ我慢できないですよ」。コメディアン、舞台人であることへの強烈なプライドは、聞いていて痛快だったのを覚えています。TBS「8時だヨ!全員集合」は、毎週どこかの劇場、ホールからの生放送。舞台であれだけの歓声と笑い声を一身に浴びる快感はどれほどのものかと思います。

そもそもお笑いを志したのは「雲の上団五郎一座」の舞台中継。根っからの喜劇人なんですよね。日本テレビ「天才!志村どうぶつ園」(04年スタート)で唯一のMCを引き受けたのも、「いずれまた舞台でコントをしたい」という情熱の裏返し。実際、その2年後に志村けん一座の旗揚げを実現し、ライフワークとなる演目「志村魂」で大劇場を沸かせていました。

「行き詰まるとベンチ1個で何ができるか考える」「つまらないって言われたら、この世界では『死ね』ってこと」。一直線なコント愛もたくさん語ってくれました。先ごろ再放送されたNHK「となりのシムラ」で、当時66歳の志村さんが普通のサラリーマンを題材に珠玉のコントをいくつも繰り出しているのを見て、寝ても覚めてもコントな姿がかっこよく思い出されました。

NHK連続テレビ小説「エール」(C)NHK
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そんな志村さんが、70歳で初めて受けたドラマの仕事。きっと、これからの自身のコントに刺激になるものがあったのだと思います。演じている小山田耕三は、主人公の音楽人生に大きな影響を与える役どころ。ドリフは音楽バンドでしたから、ビートルズから三味線まで、さまざまな音楽に精通した志村さんは、音楽をテーマにしたこの作品とよく合うんですよね。コメディー色にあふれたカラフルな人間模様も、コメディーを愛する志村さんにぴったりと感じます。

初登場シーンは5月1日でしたが、本来ならしかるべきタイミングで取材会も行われていたはずで、引き受けた理由や、役の魅力を大いにうかがってみたかっただけに大変残念です。NHKが発表した生前のコメントでは「いつもの志村けんらしくない、こんなこともやりますよってところを見てもらえれば、うれしいね」。画面に広がる分厚い魅力に見入るばかりです。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)