先ごろ行われた「第22回テレビ朝日新人シナリオ大賞」授賞式に審査員として登壇した岡田惠和、井上由美子、両沢和幸の脚本家3氏のそれぞれの言葉です。

いずれもこの国の脚本界をリードする顔ぶれですが、配信時代の大波や、倍速視聴ユーザーの増加など、同コンクールが創設された22年前には考えられなかったドラマ作りの環境の変化にそれぞれ言及。戸惑いを率直に語る人間味と、変化の中で淡々と作品を発表し続けるプロの姿勢を感慨深く聞きました。

朝ドラ「ひよっこ」や「最後から二番目の恋」など多くのヒットドラマで知られる岡田さんは、コンテンツの“見られ方”の変化を語りました。

「これまでは毎週1話ずつで、次週への引っ張りを作って、という作り方をしていたけれど、今は配信の仕事をすると10話いっぺんに配信しちゃう。最後のシーンとか、誰も見ていないシーンとかもあるし、ヘタすると一晩で見ちゃうとか、倍速で飛ばすらしいとか」。シーンごと飛ばされたり、倍速視聴で行間がズタズタだったりの中でキャラクター性、ストーリー性、世界観を届ける苦労がしのばれます。

朝ドラ「ひまわり」や、「緊急取調室」「BG~身辺警護人~」などで知られる井上さんは、「配信、インターネットなど、テレビのライバルのようなもの」の勢いについて語っていました。各局が配信サービスに力を入れ、キー局横断のポータルサイト、TVerもリアルタイム配信が出そろうなど、地上波が身内の配信と視聴者を取り合う時代。Netflix、アマゾンプライムなど、海外の新作ドラマが本国での放送直後に手元に届く時代でもあり、横一線でライバルは増える一方です。

しかしいずれも、ヒットしたりしなかったりのドラマの最前線で闘ってきた人たちだけに、へこたれていません。「やっぱり、エンターテインメントは求められていると思うし、ドラマはまだまだ大丈夫だと思う」(岡田さん)、「台本というのは作品の『台』であり、設計図であるのは変わらない」(井上さん)。「お金がない!」「黒革の手帖」などの脚本で知られる両沢さんは「ドラマ界は過渡期にある。これからどうなっていくのか、逆に3人に教わりたいくらい」と、ベテランも新人もない闘志をみせています。

そんな3人が、受賞者3人に贈った選評は、今年も聞き応えがありました。称賛して終わる多くの脚本賞と違い、きちんとダメ出しもするところに「たくさん書いて、ドラマ界を引っ張ってほしい」と願う3人の神髄があります。

例えば、「運動会はホームドラマの展開のひとつ。もうひとひねりほしかった」「何かこの家族に毒というか、ピリッとした批評性があれば、温かい持ち味がさらに際立った」「最近のドラマはおとなしい男の子の設定が目立つ。エネルギッシュな男の子を主役にしたドラマが見たい」など。

本気で脚本家を目指す人であれば、金を払ってでも聞きたいのはこういう話の方。受賞シナリオは取材者にも公開されます。公の目に触れた以上、批評の対象になるのだという理屈が非常に実践的です。あえて長所も短所もしっかり述べる3人のまごころに信頼が置けるので、取材に足を運びたくなるのです。

井上さんは、受賞の3人に対し「今回の受賞作を勲章にしないでほしい」とメッセージ。「きょうの喜びは明日から忘れていただいて、次の作品に臨んでほしい。それが可能性を広げていくことになります」。なることより続けることの方が難しく、どんな仕事も悩みながら前に進むしかないのだというエールですよね。こちらの心にも大いに刺さる、すてきな言葉でした。

◆テレビ朝日新人シナリオ大賞 00年7月創設。第2回大賞の古沢良太さんなど人気脚本家を多数輩出。第22回の今年は、若杉栞南さん(22)の「拝啓、奇妙なお隣さま」が大賞、平岡達哉さん(40)の「さすらいのパンツマン」、宮本真生さん(30)の「代表取締役息子」がそれぞれ優秀賞を受賞。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)