映画「カメラを止めるな!」(上田慎一郎監督)が、6月23日の封切りから10日目の2日、東京・新宿K’sシネマで、上映された30回連続で満席という、低予算のインディーズ映画としては驚異的な記録を達成した。

 「カメラを止めるな!」は、新人監督と俳優を養成するスクール「ENBUゼミナール」の映画企画第7弾。上田慎一郎監督(34)が、13年に小劇団の舞台に着想を受けて発案した企画を元に、17年4月にオーディションでメインキャスト12人の俳優を選び、映画の製作を前提としたワークショップを開催。そして12人の俳優を当て書きする形で登場人物を描いた脚本を上田監督が書き、その直しとリハーサルを繰り返して俳優とともに作り上げた。

 物語は、山奥の廃虚を舞台にゾンビ映画を撮影する自主映画撮影隊を描く。監督が本物の映画作りを追求するあまり、テイクが42にも及ぶうち、撮影隊に本物のゾンビが襲いかかる中、大喜びで撮影を続ける監督と、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々を37分間、ワンシーン・ワンカットで撮影するノンストップ・ゾンビサバイバル映画を作る面々を描いた。

 ゾンビ映画の恐怖感はもちろん、監督、俳優陣をはじめとした製作陣の狂気とも言える奮闘ぶりを、製作の現実味あふれる舞台裏まで克明に描いた作品は、物語が途中で大どんでん返しを迎える。その意外さと、そこに至る緻密な物語、脚本の妙に本広克行、犬童一心、深田晃司、吉田大八、品川ヒロシら著名な監督たち、水野美紀をはじめとした俳優陣、水道橋博士ら映画に造詣の深い芸能人、評論家から賛辞の声が相次ぎ、17年11月に同劇場で6日間限定で行われたイベント上映で話題が沸騰。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でゆうばりファンタランド大賞(観客賞)、イタリア・ウディネ・ファーイースト映画祭シルバーマルベリー観客賞2位など、国内外の各映画祭で評価されたこともあって口コミがさらに広がり、満員札止めの人気が止まらない状態が続いている。

 2日の2回目の上映後には、作家で自主映画も監督する乙一氏(40)と上田監督のトークイベントが開催された。乙一氏は2度、作品を見ており「イベント上映の時は、満員で入れなかった。2回目が本当に面白い。初めて気付いた箇所が幾つもある」と絶賛。その上で「よく、こんなものを作ったなと。思い付いても実行に移せないというか、やろうと思わない」と、上田監督の発想、企画、実行力に驚嘆した。

 上田監督は「(製作を)止められましたね。でも、止められないものをやっちゃダメだなと思った。新人監督と俳優が映画を作る企画で低予算。でも、勝負作なので、まぁまぁみたいなものを作っちゃダメ。0点か200点のものを作らないと、何も残らないと思った」と笑顔で振り返った。

 製作費は、ワークショップに参加した俳優の受講料とクラウドファウンディングで集めた150万円強などを含めた、約300万円と低予算で製作された。それが10日間で動員は3000人、興行収入は300万円を超えた。現在は池袋シネマ・ロサを含む都内2館での上映だが、北は北海道から南は宮崎県まで12都道府県、15館での上映が決まっているほか、全国の劇場から上映したいと熱望する声が相次いでいるという。

 上田監督は中学時代に自主映画の製作を始め、高校卒業後も独学で映画を学び、11年に長編映画「お米とおっぱい」を製作した。同作を含め、これまで8本の映画を製作してきたが、事業の失敗から一時はホームレスになり、映画の製作からも離れた時期があったという。妻のふくだみゆき監督が製作した17年2月公開のフラッシュアニメ映画「こんぷれっくす×コンプレックス」ではプロデューサーを務めたが、ふくだ監督が同3月に長男を出産したのと、ほぼ同じタイミングで劇場用長編映画デビュー作「カメラを止めるな!」の製作に取り組んだ。「ここまでの反響は想像できなかったし、それに浸る暇もない」とうれしい悲鳴を上げた。

 新作映画の製作オファーも幾つかあるというが「今は『カメラを止めるな!』の上映に集中したい」と気を引き締めた。非常に小さなインディーズ映画「カメラを止めるな!」の勢いは、もう止まらない。【村上幸将】