「なんだか、切ないですね」。元AKB48で女優の渡辺麻友さん(26)が芸能界引退を発表した今月1日、たまたま別件で電話をしたアイドルグループ関係者の第一声だった。「私は彼女と深く関わりがあったわけではないですけど、いかに頑張ってきた人なのかは自然と聞こえてきました。麻友さんみたいな人が引退するのは、やっぱり切ないです」と繰り返した。

AKB48加入前の渡辺さんは、アニメやイラストが好きなおとなしい少女だった。小6の時にネットサーフィンで知ったAKB48のファンになり、オーディションを受けるも不合格。その後は中学生として、毎日数時間を勉強に費やす日々を送った。親しいメンバーからは「麻友はAKB48に入ってなかったら、東大に入っていましたから」と言われるくらい、優秀な生徒だったという。それでも中1の冬、06年12月に、母親に反対されながらもオーディションに再挑戦。3期生としてAKB48に加入した。

その後は生活が一変した。厳しいレッスンを積んで翌07年4月に劇場公演デビューを果たすも、足を痛めて休演し悔し泣きした。慣れない環境に悪戦苦闘しながらも、ストイックに努力を積み重ね、人気を獲得していった。その後の絶対的「王道アイドル」としての活躍はよく知られていることだろう。AKB48も、社会現象となった。

元祖「神7(セブン)」の中で最年少。次々と中心メンバーが卒業していく中、11年間のアイドル生活を全うし、最後の元祖神7として17年末に卒業した。特に14年の選抜総選挙で1位になって以降は、アイドルの「正統」「清純」の象徴として、ファンからの期待を一身に背負っていた。「正統派」「清純派」の性質上、1つのミスも許されなかった。計り知れないプレッシャーと闘い続けていた。

元祖神7の中で初の引退発表は、電撃的だった。先輩メンバーも、アイドルの後輩たちも、スタッフも、ファンも、「幸せになってほしい」「お疲れさまでした」と次々とコメントした。誰しもに自然と「報われてほしい」と感じさせることが、長年のひたむきな努力の積み重ねの結果だろう。「渡辺麻友」の名前は確かに人々の心に、芸能界に深く刻まれた。【横山慧】