名作ドラマ「北の国から」の演出で知られる杉田成道氏(77)は、2001年(平13)に日本映画衛星放送(現日本映画放送)社長に就任以降、時代劇の制作に心血を注いでいる。運営する「時代劇専門チャンネル」で、10年にオリジナル時代劇「鬼平外伝 夜兎(ようさぎ)の角右衛門」を制作して以降、10年でオリジナルの時代劇21作品を制作。そして同じ作家・池波正太郎氏の代表作「鬼平犯科帳」と「仕掛人・藤枝梅安」を、満を持して新たに映像化する。

「鬼平犯科帳」は過去、テレビドラマが4作放送されているが、新作では主人公の長谷川平蔵に松本幸四郎(48)を起用。69年のテレビ朝日系ドラマで祖父の初代松本白鸚が初代、89年のフジテレビ系ドラマで叔父の中村吉右衛門が4代目を演じたのに次ぐ正統、直系とも言うべき5代目の鬼平だ。池波氏生誕100年にあたる23年5月から映画版を撮影し、同11月から連続ドラマシリーズを撮影予定。24年5月に映画を公開と同時に、連続ドラマシリーズを配信するという。

「仕掛人・藤枝梅安」は、主人公の梅安に豊川悦司(58)を起用。22年に映画2作を同時撮影し、池波氏の生誕100周年にあたる翌23年2、5月に連続公開の予定だ。

12日に東京・帝国ホテルで行われた会見を取材した。日本映画放送社長として冒頭に登壇した杉田氏は「今、日本は50代以上の方が人口の半分を超えようとしております。ところが、残念なことに放送では熟年、大人のためのドラマが大変手薄になっております」と現状を説明。その上で「地上波、民放では、ごくわずかなものを除いて壊滅的。19~48歳向けのドラマが8割を超え、寂しい限り。日本で生活する半分以上の方に、届けるドラマがない…気持ちの上では、これでいいのか、日本人? という気持ちが強い」と訴えた。そして「時代劇は、日本の文化。独特の倫理、美意識…誇れる日本人を機微を持って表現する芸術で大事なジャンル。得難い文化…何と言っても面白いと言っていい時代劇をお届けしたい」と抱負を語った。

会見の途中からは、映画「鬼平犯科帳」の監督として登壇。「社長」から「監督」に呼び名が変わると、途端に表情が柔らかくなった。その顔を見て「やはり、この人は監督だ」と感じた。監督作「最後の忠臣蔵」のプレミア試写が、米ロサンゼルス市内のワーナーブラザース・スタジオで行われた際、同行取材した。試写後、明け方近くまで飲んだ時もそうだが、映画やドラマ作りについて語る時、杉田氏の顔は一番、輝く。「幸四郎さんを見ていると、やっぱり血だなぁ…オーラ、スケールが何重にも見える。豊川さんを見ていて、梅安は色気…女性が見て、格好良いと見えますよね? そういう感じがおふたりの中に、におう」。笑みが、こぼれっぱなしだ。

会見後、杉田氏にあいさつし、久々に個人的に話をした。今回のプロジェクトは、中長期的な視点で腰を据えて取り組むという。いまだコロナ禍の先行きは見えない状況だが、10年前の夜のように、映画やドラマの話をとことんしたい。小さくなっていく一方の時代劇の灯火を、杉田氏がどう盛り返すか、見てみたい。【村上幸将】