駆け出し記者だった80年代初めの頃、当時最大手のレコード会社だった東芝EMIにMさんという個性的な宣伝マンがいた。

髪は今で言えばラグビーの堀江翔太選手のようなドレッドヘア。いつもボブ・マーリーのTシャツを着ていた。私がレゲエをよく聴いていることを知ると「スポーツ紙記者では珍しい」と喜んで、発売日の度にサンプル盤を届けてくれた。

米国音楽事情に通じていた、そんなMさんの情報で書いたのが、80年7月17日付けの芸能面トップ記事「解散!? ローリング・ストーンズ」だった。

今から思えば、その後何度も浮上した「解散説」の走りのようなものだ。記事ではメンバーそれぞれの「不穏な動き」を理由に挙げているが、Mさんと私の頭にあったのは第一に年齢的なことだったと思う。

最年長のチャーリー・ワッツさんは当時42歳。38歳になったミック・ジャガーは当時「40歳になったら『サティスファクション』は歌わない」と公言していた。例え30代でもかなりハードなワールド・ツアーを繰り返し、「ドラッグによるメンバーの疲弊」という情報もついて回った。ジャンルは違っても同様の活動をしていたボブ・マーリーが36歳であえなくこの世を去ったのも81年だった。

ストーンズの日本発売元として事情に通じ、当時としてはかなりぶっ飛んだ感じだったMさんにしても、60、70歳代でバンド活動を続ける彼らのことはイメージ出来なかったのではないかと思う。

80歳のワッツさんが「現役ストーンズ」のまま亡くなったという先日のニュースは、そういう意味でも大きな驚きだった。

思い返してみれば、20代の私も40年後にストーンズやレゲエを聴き続けているとは想像もしなかった。というわけで、ワッツさんのラスト・パフォーマンスとなった一昨年8月30日のマイアミ公演の動画を改めて見た。当時78歳のドラミングは終始ぶれていない。ストーンズならでは音の厚みを表情も変えずにしれっと支えている。ポール・マッカートニーの追悼コメントの中にあった「素晴らしいドラマーで、岩のように安定していた」を実感した。

この3年前のキューバ公演の時にキース・リチャーズは「とにかくチャーリーの気力、体力には驚く。ドラムはハードだ。今の俺なら10分と持たない」とコメントしている。メンバーからしても、「70代ドラマー」の衰えない演奏はやはり驚きだったのだ。

多くの人々の想像を超えたワッツさんの「生涯現役」にはただただ感服するしかない。【相原斎】