「なごり雪」や「22才の別れ」などの名曲で知られるシンガー・ソングライターの伊勢正三(69)が今月22日、50周年記念のベスト盤を、日本クラウンとフォーライフから同時発売する。

だが、ショックな50周年になってしまった。12日に、風でコンビを組んだ大久保一久さん(享年71)が急性心臓死で急死。16日、都内で行われた葬儀・告別式に参列した伊勢は「よく電話で話していた。とても元気だったのに」と肩を落とした。

出棺の時には「久保やんが亡くなったという時間、風の映像を見ていたんですよ。もちろん、これは偶然なんですけど。実は、今月の末には、『伊勢正三LIVE BEST~風が聴こえる~風LIVE Vintage』も出す予定で、このアルバムについて久保やんとも話していたんです」と唇をかみしめた。

アルバムはかぐや姫、風、ソロを含め「あの日のままの、あの日の音をそのまま」に、完全オリジナル音源を最新のリマスターで鮮やかによみがえらせた作品。伊勢は「あらためて聴くと、元気だった頃の久保やんの顔が浮かんでくる」。

日本クラウン版は、71年から80年までの作品を中心に構成したベスト・アルバム「伊勢正三の世界~PANAMレーベルの時代~」。フォーライフ版は、デビューから現在までのプレミアムなライブテイクを集めたライブ・アルバム「THE伊勢正三 50th・LIVE COLLECTION」。

伊勢のデビューは、71年9月に南こうせつ(72)山田パンダ(76)と結成したかぐや姫だった。その後、フォークグループ、猫のメンバーだった大久保さんと結成したのが風だった。

「かぐや姫を解散してソロ活動を始めようした時に、一方で誰かとコンビを組むことも考えていた。その時に、やはりグループを解散したばかりの大久保さんと知り合った」のがキッカケだった。そして、デビュー曲として発売したのが、かぐや姫時代に書き下ろした「22才の別れ」だったという。

ソロ活動に転じた後も、伊勢のコンサートに大久保さんがたびたび駆けつけたことがあったという。08年には再結成で動いたが、大久保さんがコンサートのリハーサル中に倒れてしまった。

この時の伊勢は、大久保さんを励ますかのように、全国各地を精力的にライブで回り続けてきた。「久保やんと一緒に全国を回る予定だったコンサートを、その後、1人でやったんです。久保やんの書き下ろした曲もセットリストに入れ、久保やんのパートも僕が歌う形でコンサートをしました」。

伊勢は50周年を迎える9月にベスト盤を発売するために、半年かがりで準備を進めてきた。「コロナ禍でライブも厳しい中、これまで支えてきてくれたファンに喜んでもらえるような作品集を届けたいと思いました」。

「伊勢正三の世界-」については「歌は、聴いてくれる人の思い出とともにある。かぐや姫、風の時代…あの頃の音源に一切、手を加えたりせず、それをよりいい音で聴いてもらえることを重視して、あの頃の音源が残っている日本クラウンから発売することになった」と説明する。

「THE伊勢正三-」は、収録曲60曲のうち54曲が未発表音源を使用してのプレミアム・ライブ・アルバム。伊勢のこだわりはアルバムの1曲目「あの歌はもう唄わないのですか」。初めて出身地である大分・津久見市で行った凱旋(がいせん)コンサート(09年)での録音を使用。2曲目の「22才の別れ」は、75年に静岡県掛川市でつま恋で行われた伝説の野外コンサートの録音を使った、伊勢は「とにかく、物語のようなアルバムに仕上げました」。

当初は3枚組を考えていたと言う。しかし、編集作業を進めていくと「それでは収まり切れないうれしい誤算」となり、試行錯誤する中で、最終的に4枚組のアルバムとなった。

日本クラウン版「伊勢正三-」は2枚組40曲収録で3500円、フォーライフ版「THE伊勢正三-」は4枚組60曲収録で5500円。