東京映画記者会(日刊スポーツなど在京スポーツ紙7紙の映画担当記者で構成)主催の第64回(21年度)ブルーリボン賞が23日までに決定し、西川美和監督(47)が「すばらしき世界」で3回目の監督賞を受賞した。刑期を終えた男が懸命に再出発を図る姿や、周囲の人々を描いた。

「ゆれる」「ディア・ドクター」で受賞した時に贈られた刻印入りの万年筆を愛用している。取材に持参した西川は「これでどれだけの俳優さんに手紙を書いたか。役所さんにも書きました。(原案小説)『身分帳』を読んで1年半くらい取材をして、第1稿を書くぞ、という時にご依頼しました」と笑みを見せた。

受賞に「映画を作ることの難しさ、作れることへの幸運を感じますし、たくさんの中からたった1本を選んでいただけることがとてもうれしいです。汗をかいて実現してくれるのは、俳優とスタッフだということをかみしめています。一緒にやってきた人たちが褒められたという気がしてうれしいです」と喜んだ。

原案小説は佐木隆三氏の「身分帳」。「作家としての表現スタイルに憧れていた。佐木さんが亡くなって、尊敬してきた1人の作家を失った気がした」と話した。「身分帳」が絶版になっていることを知り、復刊させたいという思いが最初だったという。映画化に伴い、「身分帳」も復刊された。「映画の力ってすごいですね」と笑みを見せた。

役所にもあこがれつづけてきた。17歳の時に見たスペシャルドラマでの殺人犯役に圧倒されたという。今回は殺人を犯し刑期を終え、何とか懸命に生きようとする男を演じた。不器用で怒りっぽくて、憎めない面も持っている。西川監督は「偉人よりは、えたいの知れない役、人間の生ぐささや狂気を演じてもらいたいと思いました。いつかいつかと思っていると、どんどん遠くなってしまう。今回は役所さんありきでした。手紙を書いて『期待して第1稿を待っています』と言ってくださったので、脚本を書きやすかったです」と話した。

次回作の構想については「全然形になっていないです。まだ勉強中ですが、終戦前後をやってみたいです」と明かした。寡作な監督でもあり、3~4年先を見すえる。「じっくりでいいと思います。時間をかけて脚本を書いたりすることが、映画作りには大事。後に続く世代が、日本で映画を作ることも悪くないと考えられるようにしないと」と話した。【小林千穂】

◆西川美和(にしかわ・みわ)1974年(昭49)7月8日、広島県生まれ。02年、「蛇イチゴ」で監督デビュー。長編2作目「ゆれる」と同3作目「ディア・ドクター」でブルーリボン賞監督賞。ほか「夢売るふたり」「永い言い訳」など。「永い-」は、映画に先行して同名小説を書き、直木賞候補に。

◆ブルーリボン賞 1950年(昭25)創設。「青空のもとで取材した記者が選出する賞」が名前の由来。当初は一般紙が主催も61年に脱退し67~74年の中断を経て、東京映画記者会主催で75年に再開。ペンが記者の象徴であることから副賞は万年筆。主演男、女優賞受賞者が、翌年の授賞式で司会を務めるのが恒例。