“アニメソングの帝王”こと歌手の水木一郎さん(みずき・いちろう、本名・早川俊夫=はやかわ・としお)が6日、肺がんのため亡くなったことが分かった。74歳だった。7月に肺がんで闘病していることを公表していた。

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21年2月、都内の事務所で話を聞いた。前年末の第62回日本レコード大賞で、LiSAの「炎(ほむら)」が大賞を受賞していた。大ヒットアニメ映画「鬼滅の刃」の主題歌だった。水木さんは「アニソンの市民権を得たいとやってきたことが(今に)つながっているのなら、正直、うれしいです」と素直に喜んだ。

父はレコード店経営。幼少から歌手を目指した。エルビス・プレスリーのレコードなどを回転数を変えて何度も聴いた。声の震わせ方、ブレスを研究した。

68年の夢の歌手デビューは歌謡曲だった。同じレコード会社で人気絶頂の「舟木一夫」にあやかった。「舟には水が必要。名前には一をもらおう」と、水木一郎の芸名になった。

売れなかった。ディレクターからアニメ歌手を勧められた。他の歌手は「子供相手の漫画の歌なんて、顔も出ないし、テレビにも映らない」と断った。水木さんは「元々、映画の主題歌を歌いたかったから、テレビを小さな映画と思えばいい」と受けた。

当時は売上枚数で歌謡曲を超えていても、チャートの対象外。評価は低かった。「アニソン歌手を認知してほしい。そのためなら笑われてもいい」。常にたなびく赤いマフラーをして、ポーズを取って「ゼーット!」と叫び続けた。

いつしか「アニソンの帝王」になった。「歌手は個性をどう出すかに悩む。でもアニソンにはヒーローがいる。ヒーローになり切ればいい」と話した。「マジンガーZ」の重厚感と主人公・兜甲児のやんちゃさ。ロボコンのコミカルさ、「侍ジャイアンツ」の野性味と歌い分けた。

次の目標を「宇宙でのライブ。『(宇宙海賊)キャプテンハーロック』を歌うこと」と話していた。くしくも民間の月面着陸プロジェクトが進んでいる。水木さんは手を挙げたかっただろう。事務所の居間にズラリと並んだフィギュアたちが泣いている。【笹森文彦】