第45回松尾芸能賞の受賞者が14日、発表された。

歌舞伎俳優で立女形として常に存在感を放つ五代目・中村時蔵が大賞を受賞。俳優佐藤B作、歌手由紀さおり、俳優古田新太らの受賞が決定した。贈呈式は3月29日に都内で行われる。

松尾芸能賞は公益財団法人松尾芸能振興財団により、1979年(昭54)から日本の伝統ある劇場芸能を助成し、振興し、独自の文化、芸能の保存及び向上に寄与することを目的として授与されている。

今年の受賞者と受賞理由は以下の通り。

▼大賞 演劇 中村時蔵=26歳の若さで五代目中村時蔵を襲名して以来、歌舞伎界を代表する女形として実力を発揮してきた。古風な中に艶やかさとおうようさがあり、どのような役を演じても時蔵ならではの味わいを見せてきた。2023年は、初役ながら「妹背山婦女庭訓」太宰後室定高で情理をわきまえた演技で立女形の風格を、「鎌倉三代記」三浦之助義村ではりりしさの中に義太夫歌舞伎らしいコクを表現した。

▼優秀賞 演劇 佐藤B作=コメディーを主眼にした俳優活動は多くの観客に支持され、舞台、テレビ、映画、バラエティー、ドラマと幅広い。主宰する『劇団東京ヴォードヴィルショー』の三谷幸喜作「その場しのぎの男たち」は、再演を繰り返す代表演目となっている。外部出演も数多く舞台を活性化させている。自らの活動に限らず劇団員や劇作家に機会を与え育成し、日本の喜劇を発展させたことは余人をもって代えがたい偉業である。

▼優秀賞 邦楽 米川文清=幼い頃から名流米川文子(初代・二代)の側近で育ち、二代目に師事して本格的に生田流の古典に専念し修業を重ねてきた。その成果はほぼ毎年、自身の演奏会で披露され、2023年の第16回演奏会では師匠の助演から離れて独自自在の境で大曲「七小町」「笹の露」「竹生島」に師承の芸の底力を遺憾なく発現させ、古典力の豊かな輝きをみせて聴く者を感動させた。

▼優秀賞 演劇 古田新太=『劇団☆新感線』の看板俳優として約40年、活躍を続けている。「五右衛門ロック」「髑髏城の七人」といった長年の人気シリーズでは主演を続け、ひょうひょうとしてコミカルなキャラクターからは想像もつかないシャープな殺陣を見せてきた。2023年「天號星」でもその魅力は健在である。気さくな善人から底知れない悪役までこなす演技の幅広さで、舞台、映画やテレビ出演も数えきれず、得難い俳優である。

▼優秀賞 文楽 豊竹呂勢太夫=若い頃から個性的な声で頭角を現し端正な語りに磨きをかけ、古典、新作に実力を発揮し、活躍は目覚ましい。師匠の厳しい教えに真正面から向き合った本人の努力のたまものである。人間国宝鶴澤清治に薫陶を受け17年になる。この一年は、初役ながら「菅原伝授手習鑑宿禰太郎詮議の段」「仮名手本忠臣蔵塩谷判官切腹の段」の大曲で成果を見せた。円熟期を迎える今後の大成を期待する。

▼新人賞 演劇 中村児太郎=6歳の初舞台から10代後半までは「沓手鳥孤城落月」の裸武者といった立役を数多く演じ、着実に進境を重ねてきた。24歳の時に坂東玉三郎の指導を得て「壇浦兜軍記」の琴・三味線・胡弓を弾きこなす難役阿古屋を史上最年少で演じた。芸への覚悟と執念が歌舞伎俳優として大きく成長させ、2023年は「神霊矢口渡」の娘お舟、「助六由縁江戸桜」の三浦屋揚巻を初役で演じ高い評価を得た。

▼特別賞 歌謡 由紀さおり=幼い頃から姉安田祥子と共に童謡歌手として活躍。「夜明けのスキャット」「手紙」の大ヒット以来、歌手の他に司会、バラエティー、女優、ナレーター等、幅広い活躍は長年にわたる。特に2011年、ピンク・マルティーニとコラボでリリースした「1969」は世界50ヵ国以上で大きな評価を得た。国際的な知名度も高く歌謡曲のみならず、ポップス、ジャズ、アニメ主題歌と歌唱は多岐にわたり日本の音楽文化発展に大きく貢献した。

▼功労賞 演劇 林与一=若手歌舞伎俳優時代から70年近く、歌舞伎、新派をはじめ松竹、東宝等の商業演劇の世界で数多くの記憶に残る舞台をみせてきた。テレビや映画での出演も含めれば多彩な「芸能史」への功績は多大なものがある。傘寿を越えた現在も色気と風格を体現する身ごなしとメリハリあるせりふ回しを見せ、舞台には瞠目すべきものがある。近年は後進俳優たちへの助演、助力も惜しまず健闘している。