小柳ルミ子(73)が歌手デビュー55周年を迎えた。半世紀以上のキャリアの中で、鮮烈に記憶に残る1日がある。1984年(昭59)2月16日、女優として第7回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲得した。日本テレビ系での授賞式生中継直後に、その会場からTBS系人気音楽番組「ザ・ベストテン」に中継で生出演。歌手としてヒット曲「お久しぶりね」を熱唱したのだ。小柳の55周年を3回連載で振り返る第2回は「歌手と女優で頂点を極めた日」です。(敬称略)【笹森文彦】
1984年2月16日木曜日。第7回日本アカデミー賞の授賞式は、日本テレビ系「木曜スペシャル」で午後7時30分から約1時間30分、東京プリンスホテルから生中継された。
小柳(当時31)は映画「白蛇抄」(伊藤俊也監督)で、優秀主演女優賞を受賞した。水上勉原作で、情欲に翻弄(ほんろう)される女の悲劇を描いた官能文芸大作。「ルミ子が脱ぐ」と話題になった作品だ。
優秀主演女優賞は、他に「陽暉楼」の池上季実子、「楢山節考」の坂本スミ子、「天城越え」などの田中裕子、「時代屋の女房」などの夏目雅子。
授賞式では壇上に5人が並び、最優秀主演女優賞が発表される。
小柳は前年83年の第6回日本アカデミー賞で、映画「誘拐報道」(同監督)で最優秀助演女優賞を獲得した。だが、主演の勲章は重みも違ってくる。
「全然、取れるなんて思っていませんでした。(池上)季実子ちゃんが最有力候補だったんです」と当時の心境を明かす。
同番組の終了直後の午後9時から、TBS系で高視聴率音楽生番組「ザ・ベストテン」が始まる。
小柳の「お久しぶりね」(作詞作曲・杉本真人)は8位。前週の5位からダウンしていたが、「星の砂」(77年)以来約6年ぶりにオリコンチャートでベスト10に入るなど、ヒットしていた。
78年に始まった「ザ・ベストテン」には、「今週のスポットライト」というコーナーに2度出演した。「お久しぶりね」は、初めてのランクインだった。
同番組は、仕事の都合でスタジオに来られない歌手を追っかけて、その場から生中継するのが売りになっていた。コンサート会場や、時には新幹線の車内からでも生中継した。
回転ボードによるランキングは、下位から発表される。8位は番組の早い段階で、生中継の準備に入らないといけなかった。
「最優秀を取っても取れなくても、中継があるということは知らされていました。会場を出た、すぐの広い廊下で歌うことになっていました」。
授賞式の終盤、最優秀の候補5人が壇上に並んだ。ドラムロールが鳴った。小柳の名前が呼ばれた。
ゴールドのロングドレスを着た小柳は、両手で顔を覆い、大粒の涙を流した。
前年受賞者の松坂慶子からトロフィーを手渡され、祝福された。感想を求められ「これからも歌と芝居に頑張りたい」と、声を詰まらせて話した。
午後9時前、授賞式の生中継が終わっても、会場での催しは続いていた。その裏で、「ザ・ベストテン」の生中継が刻一刻と迫っていた。
8位の回転ボードが回る寸前に、小柳はトロフィーを持って、今度は歌手として「ザ・ベストテン」の生中継になだれ込んだ。
「興奮していたので、何を言われたのか、言ったのか覚えていません。喜びの極みの中で歌いました。自分のために中継してくれることに申し訳ないというよりも、感動しましたし、誇らしかったですね」と懐かしんだ。
最優秀主演女優賞を獲得した女優が、その授賞式会場から、今度は歌手として歌番組に生中継で歌う。過去も現在も、誰もやったことのない経験だった。
小柳は「瀬戸の花嫁」(72年)で、第3回日本歌謡大賞を受賞した。デビューから、わずか1年余で歌謡界の頂点に立った。
吉永小百合は橋幸夫とのデュエット曲「いつでも夢を」で、第4回日本レコード大賞を獲得。日本アカデミー賞では最優秀主演女優賞を4回受賞するなど、別格の存在である。
ただソロ歌手として、歌手と女優の頂点を極めたのは小柳だけである。
「デビューからしばらく、(新曲を)出せば売れるが続いた。ある時、売れなくなってスタッフと試行錯誤した。そんな時、映画の話が来て、会社に猛反対されながら、自分はこういうアーティストとして、こんなふうに表現していきたいと戦った。そして『白蛇抄』が、『お久しぶりね』が生まれた。小柳ルミ子の2度目のブームが来たんです。30歳が転機でしたね」。
84年2月16日。清純派として日本の情緒を歌ってきた小柳の、「第2章」が始まった日でもあった。(つづく)
◆小柳ルミ子(こやなぎ・るみこ) 本名・小柳留美子。1952年(昭27)7月2日、福岡市生まれ。宝塚歌劇団の同期は麻実れい、東千晃ら。最大手の渡辺プロダクションから、71年4月25日に「私の城下町」で歌手デビュー。第13回日本レコード大賞最優秀新人賞などを獲得。ヒット曲は他に「京のにわか雨」「冬の駅」「星の砂」「今さらジロー」など多数。今年3月に55周年記念曲「愛は輪廻転生」を発表。同2月には初のストレッチ本「毎日少しずつ、柔らかい体になる!」(大和出版)を発売。NHK紅白歌合戦は71年から18年連続出場。身長157センチ。血液型B。



