映画「男はつらいよ」シリーズで寅さんの「おばちゃん」役で親しまれた女優三崎千恵子(みさき・ちえこ)さん(本名・宮阪トシ=みやさか・とし)が13日午後7時15分、老衰のため、神奈川県鎌倉市の病院で亡くなった。90歳だった。69年の第1作から最終48作まで渥美清さんふんする寅次郎のおばちゃんを演じた。通夜は18日午後6時から、葬儀・告別式は19日午後1時半から神奈川県藤沢市藤沢493のカルチャーBONDS藤沢で営まれる。喪主は長女柴順子(しば・じゅんこ)さん。

 だんご屋「とらや」のおばちゃんが亡くなった。三崎さんは昨年公開のドキュメンタリー映画「ムーランルージュの青春」に車いす姿で出演しており、最後まで女優だった。昨年5月ごろに体調を崩し、鎌倉の老人ホームも併設された病院に入院。今月初めには「男はつらいよ」の山田洋次監督、さくら役の倍賞千恵子らが見舞いに訪れたが、13日夜、家族にみとられて息を引き取った。1人娘の順子さんは「苦しまず大往生でした。前日まで元気で、声をかけると分かってくれました」と話した。

 寅次郎の渥美清さん、夫のオイちゃんを演じた初代森川信さん、2代目松村達雄さん、3代目下條正巳さん、御前様の笠智衆さん、印刷工場のタコ社長太宰久雄さんに続き、寅さんファミリーの1人がまた天国へ旅立った。

 69年に「男はつらいよ」の寅次郎のおばちゃん、車つね役に起用された。当時、夫の両親の世話をするため女優をやめようと思っていた。山田監督の説得に最後の記念にと出演したが、以来、渥美さんが亡くなって最終作となった95年の48作まで全作に出演。陽気で人情家の下町のおかみさんを演じ続け、庶民的な芸風で人気を集めた。着物が大好きで、三越などで「三崎着付け教室」を開くほど。「男はつらいよ」でも着物姿が多く、下町のおばちゃんらしい着物の着方にこだわった。

 女学校を卒業し、百貨店の白木屋に入社。コーラス部活動でスカウトされ、松竹演芸部の歌手としてデビュー。新宿ムーランルージュで女優として活躍し、42年、劇団仲間の俳優宮阪将嘉さんと結婚。54年に劇団民芸に入団し、舞台「アンネの日記」などに出演し、日活のアクション映画に多数出演した。おばちゃん役のイメージが強く、役が来ない時期もあったが、「男はつらいよ」後は「やりたいことがたくさんある」と、ドラマ、映画、舞台にも積極的に出演し、ボランティア活動にも参加。小唄や荻江節の名取になるほどの粋人だった。

 ◆三崎千恵子(みさき・ちえこ)1921年(大10)2月20日、東京生まれ。松竹新興演芸部を経て、新宿ムーランルージュに入団。戦後は54年に劇団民芸に入り、新藤兼人監督「どぶ」で映画デビュー。67年に退団後は映画「男はつらいよ」で全48作に出演。ドラマ「青春とはなんだ」「時間ですよ」、映画「家族」「川の流れのように」、舞台「結婚する手続き」などに出演した。