岸田文雄首相(2022年7月18日撮影)
岸田文雄首相(2022年7月18日撮影)

岸田文雄首相に「3度目の判断」が迫りつつある。問題を抱える大臣を交代させるか否かの判断で、「政治とカネ」の問題が深刻化する寺田稔総務相(64)を、更迭する判断のヤマ場が近づいているが、この「3度目」は、その前の「1度目」「2度目」とは決定的に異なる要素がある。首相にとって、寺田氏は「身内」も同然だからだ。

岸田政権では、10月24日に山際大志郎経済再生相(当時)、11月11日に葉梨康弘法相(同)が辞任した。しかし、首相は2人をなかなか辞めさせようとせず、更迭する判断のタイミングがずれ、野党の批判だけでなく、与党からも疑問の声を受ける結果になった。山際氏の場合は、旧統一教会との関係をめぐる問題で大きな批判を浴びた「これからも(新たな問題が)出る可能性がある」発言から1週間あまり、葉梨氏も「辞任させるべき」という声が自民党でも拡大した翌日。「決断できない首相」という、さらに大きなピンチを招く結果になった。

そして今回が、3人目の寺田氏。選挙や政治資金を管轄する総務相の立場ながら、自身の後援会の会計責任者に故人の名前が掲載されるなど、政治資金収支報告書への不適切な記載や疑惑がぞろぞろ。国会の質疑でも説明は十分でなく、「疑惑かもしれないが事実ではない」などと開き直るような発言もあった。

しかし、自民党関係者は語る。「寺田さんを切るか切らないかの判断は、前の2人とは違って、相当に難しいのではないか。寺田さんは首相の側近。もっと言えば『身内』といっても構わない存在だからだ」。

寺田氏は首相と同じ、広島選出(広島5区)で、首相が率いる岸田派(宏池会)に所属する。宏池会は、かつて首相を務めた池田勇人氏が1950年代後半に創立した自民党の老舗派閥の1つだが、寺田氏の妻の祖父が池田氏。今の選挙区も、池田家の代々の地盤だ。寺田氏の問題が深刻化する中、首相は自分の派閥の創立者の親族、極めて自身に近い存在を更迭するかしないかの判断に、直面し続けたことになる。

衆院本会議で閣僚席に座る寺田稔総務相(2022年11月10日撮影)
衆院本会議で閣僚席に座る寺田稔総務相(2022年11月10日撮影)

首相の寺田氏への配慮はこれまでにもにじんでいた。首相は昨年12月、寺田氏を首相補佐官に就任させた。これは、その直前に行った最初の組閣で「入閣漏れ」した寺田氏への処遇といわれた。ちなみに、この時に寺田氏とは別に内閣官房参与に就いたのが、直前の衆院選で落選した自民党の石原伸晃氏。党総裁選で首相を支持した石原氏の起用は「お友達人事」との声もあったが、石原氏が代表を務める選挙区支部によるコロナ助成金受給問題で、8日で辞任した。一方、寺田氏はその後も首相補佐官を務め続け、今年8月の内閣改造で総務相として初入閣した。

参与も補佐官も、首相が信頼する人物を置くのが定石。寺田氏は当選6回で、「大臣待機組」といってもおかしくなく、最初の組閣で入閣させられなかったことで、補佐官として重用した形にみえた。

そんな寺田氏が抱える、多くの「政治とカネ」の問題。続投させても更迭しても、自身や政権の体力に大きなダメージとなるのは確実だ。逆にかばい続ければ、山際氏や葉梨氏の更迭劇の時よりも、厳しい批判が出かねない。判断の遅れがあれば、なおさらだ。

葉梨氏の「法相軽視」の失言は大問題だったし、安倍晋三元首相の銃撃死以降、あらためて社会問題になっている旧統一教会との関係を説明できなかった山際氏も「辞任やむなし」ではあったが、寺田氏は政治資金をつかさどる総務相にありながら、数々の問題や疑惑をかかえる。「政治とカネ」は、政治家としての倫理観をはかるひとつの目安でもあり、「もはや任にあらず」(立憲民主党議員)の声は、与野党を超えて出る結果になった。

首相は19日のタイでの記者会見で、寺田氏の進退について問われ、続投させると答えなかった。腹は決まっているようにも見えた。明日11月21日から2022年度第2次補正予算案審議が始まり、24日からは衆院予算委員会も予定される。辞任がなければ寺田氏もこの場に出席する。出席すれば野党の「集中攻撃」は目に見えている。

岸田首相が寺田氏を更迭すれば、今年8月の内閣改造で入閣した岸田派議員3人(寺田氏、葉梨氏、林芳正外相)のうち2人が、更迭で政権を去ることになる。【中山知子】