岸田文雄首相の親族が昨年末に首相公邸で開いた「忘年会」をめぐる報道が、新展開を迎えた。首相の長男で秘書官を務めた翔太郎氏(6月1日付で辞職)や親族が、公邸内の「公的スペース」での「閣僚写真撮影ごっご」などに興じた「週刊文春」の報道が出た後、今度は「フライデー」が、「私的スペース」での岸田首相夫妻を含めた親族集合写真の存在を報じた。首相は「親族と食事をともにした」と認めつつ「私的なスペースで親族と同席したもの。公的スペースにおいて不適切な行為はない」と述べ、「私的スペース」での写真なので問題はないとの認識を示した。

忘年会に関して、最初に長男に関する報道が出た後から「公的スペース」「私的スペース」の2つの言葉が飛び交い、ざっくり言えば一連の忘年会に関する行動については「私的スペースは問題なし」「公的スペースでは問題あり」という線引きが、語られてきた。

首相官邸のホームページには、公邸について「総理の日常生活を行う住まい」と記載がある。確かに首相が日常生活を送るプライベートな場で、中での生活ぶりは外に漏れるような性質のものではないと思う。また、首相ご本人が国会答弁で述べたように「どのように生活すべきか、さまざまな指示がある」。何をやっても許されるわけではないのは当然で、だからこそ、「閣僚写真撮影ごっこ」などがばれてしまったことで長男の更迭劇に発展した。

首相公邸での親族による忘年会という、ごく一部の人しか体験できない特別感。普通なら表に出ない話を、一般の国民が知ればどうなるか。それもけして良くない内容が報じられた。家族思いとされる首相も長男の秘書官辞職を受け入れざるを得なかったのだろう。

普段官邸で執務に当たる首相にとって「職住近接」の環境にある公邸は、単に便利というだけでなく、有事などに即動けるよう危機管理対応への意味合いが含まれている。今回の首相の釈明を聞いて、「公邸は危機管理に対応するための場所で、そこに居住空間があるだけの話。公邸自体が公的スペース。(内部について)私的とか公的とか言う首相の答弁は苦しい」と、話してくれた国会関係者もいた。「百歩譲って親族と飲み食いをしたとしても、公的施設内という考えがあれば『他言無用』のリスク管理は当然。写真が漏れたということは、徹底されていなかったのだろう。結果的に、首相の危機管理対応が甘いという結論にならざるを得ない」との説明にも納得した。

小泉純一郎氏が首相当時、2005年郵政選挙で初当選した新人議員の一部を招いた忘年会が同年末、首相公邸で開かれた。事前に開催するという情報を報道機関も把握し、出席者から会の詳細な様子が出たりすることもなかった。公邸で開かれた飲食を伴う会合がすべて、批判の対象になるわけでもない。基本的に、詳細が表に出ることはほぼないからだ。

一族から総理大臣のような立場の人が出れば、家族だけでなく親族、また関係者が公邸を訪れることもあると思う。ただ、前述したように公邸は危機管理対応のための施設で、「観光スポット」的な性格の場所ではない。岸田首相自身、就任から約2カ月後の2021年12月に公邸に入居した際、「さまざまな観点から公務に専念するため」と、危機管理上の対応の側面もあることに触れている。

岸田首相は旧民主党政権の野田佳彦元首相以来、9年ぶりに今の公邸に入居した首相だ。前任の菅義偉氏は近くの議員宿舎から官邸に通い、その前の安倍晋三氏は第1次政権では公邸に入ったが、約7年8カ月に及んだ第2次政権では都内の私邸から通い続けた。かつての官邸でもあり、2・26事件など戦前の大事件の舞台になった経緯から「幽霊出現説」があるのは有名。また、今の公邸に住んだ首相は小泉氏を除きいずれも約1年の「短命政権」に終わったというジンクスもあった。岸田首相はすでにこのジンクスは破ったが、身内の問題が政権運営の足かせになることは、森友学園問題に夫人が登場した安倍氏、長男の総務省接待問題が表面化した菅氏にも起き、大きな批判を招いてきた。それが今回、岸田首相にも起きた。

他人では対処できない、首相の身内に関する問題は「政権の体力を奪う」といわれる。そんなこともあってか、これまで自身に対する批判の「弾よけ」(自民党関係者)になってきた長男を、首相は、表舞台から退場させた。永田町では「ほかにも写真があるのではないか」と疑心暗鬼の声もくすぶっていると聞いた。首相の危機管理力が試される局面は、続いている。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)