森友学園問題の一連の取材で知られる、大阪日日新聞編集局長・記者の相澤冬樹氏が10日、自身の取材手法を明かした新著「真実をつかむ 調べて聞いて書く技術」(角川新書)を出版する。出版にあたり、NHK時代の先輩でコメンテーターとして活躍する、鎌田靖氏との対談が実現した。同氏も1月18日に、取材時に相手から話を聞き出す技術をつづった著書「最高の質問力」(PHP新書)を出版したばかり。近いテーマの著書を相次いで出版した両氏が、日刊スポーツの取材に応じた。

第2回は、黒川弘務・元東京高検検事長の定年延長問題、賭けマージャン問題など問題が相次いだ安倍晋三前首相の後を継いだものの、新型コロナウイルス対策などで後手に回っているなどと批判され、支持率の低下が止まらない、菅義偉首相と政権の問題点について語った。

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菅政権に対する国民からの批判は高まっている。会見で下を向くことが多いなどと情報発信力まで批判される中、2日夜の記者会見では、安倍氏が首相時代に多用して批判を浴びた、プロンプター(原稿映写機)まで使用しだしたことまでニュースになった。相澤氏と鎌田氏は、菅政権をどう見ているのだろうか?

鎌田氏 コロナ関連で1つ、客観的に言えるのは、1度も、誰も経験したことがないから、どういう対策を打っていけば良いかも分からない。1年たって、ようやく慣れてきている状況の一方で、どうやって伝えて良いかが、メディア側も分からない状況が今も続いているのかなと。一方で、五輪も控え(時間的に)リミットがある中、閉塞(へいそく)感をすごく感じる。

相澤氏 僕はバランスが悪いなと、すごく思っています。つまり、コロナという病気の対策をしなければいけない。でも、やりすぎると経済活動がおかしくなる。端的に言って、五輪は経済活動の最たるものだと考えられるんですけど…本当はどっちも捨ててはいけないはずのに、コロナのことを考えるとコロナのことしか考えていないし、経済のことだけ考えると「Go To-」のような施策をする。バランスがすごく悪い。全体を通して考えることの出来る人が、今の政治っていないんだなぁと思っていて。

その上で、相澤氏はバランスを取った対策が出来ない理由として「国民への愛がないから」と断じた。

相澤氏 政治のありようとして、基本的には愛がないからだな、と。国民への愛がないから。はっきり言って、自粛要請なんかしたら、自殺者が一体、どれだけ出るか分からない…というようなことを、どう考えるかという、人の痛みに対する配慮が足りない。

さらに、首相官邸での会見で、舌鋒(ぜっぽう)鋭く迫る記者がほとんどいない、報道機関にも問題が大きいと指摘した。

相澤氏 記者も情けない。何で、きちんと聞かないんだろうと。記者は官邸の会見の場にいて、首相や官房長官といった権力者に直接、質問を聞くことが出来る特権がある。どう答えるかは向こうの勝手だが、少なくとも聞くことは出来る。変だったり、誠意がない回答が返ってきたら、やり返す記者がほとんどいないのは、おかしいですよ。加えて、報道しているものが、どうして、こういう形で出るかという説明が、メディアからもなさ過ぎる。納得するかどうかは別に、あまりにも説明をしなさすぎるから(受け手である一般の国民から)本当か? と思われる。それが、本を書いた最大の理由です。

鎌田氏 同感ですね。結果だけじゃなくて、そこに至るプロセスも、今は明らかに説明する必要がある。政権などの権力者に対し「説明責任」と言うが、それはブーメランのようにメディアに返ってくる。

政府は飲食店に自粛要請をするが、その一方で協力金の額が少なく、月々の家賃にも満たないなど、補償が手薄だとの批判の声も絶えない。20年に全国民に行った一律10万円の特別定額給付を再び実施して欲しいという声も根強いが、菅首相は否定した。そうした菅氏に対し、相澤氏と鎌田氏は厳しく批判した。

相澤氏 痛みを受けている人に対して、どうするかという意味での、人に対する愛がないから、そういう発想にならない。

鎌田 テクニカルなところで、菅氏は非常にダメだと思う。自分の言葉で話をするのが足りない。説得力がない。プロンプターを使ったので、前よりは良くなったと言われたりしているが、下を見ようがプロンプターを使おうが、思い…自分の気持ちを、きちんと本当に、真剣に表現すれば伝わるはずだと思う。

相澤氏 安倍さんだって、人々に対する愛はなかったと思う。だけど、憲法改正とか軍備増強とか…愛国を標榜(ひょうぼう)できるから、勢いがあって賛美する人はいたし、それで政権は長く持ったと思う。菅さんは不思議な人で、同じように人に対する愛もないけど、愛国もない。安倍さんは良い悪いは別にして憲法改正したいから総理大臣をやっているというのが、何となく分かったけれど、菅さんは、何のために総理大臣をやっているの? と。

相澤氏と鎌田氏は、自らの取材手法を著書で明かした。取材は、社会の深層に踏み込む特殊な業務ではあるが、人と向き合うということにおいては普遍的であり、一般の会社員が人と向き合うことにも通じる。今回の対談を取材して、取材手法をあえて著書で明かした裏には、メディアに疑問の目を持つ一般の国民、取材するメディア、そして公権力…その全てに対して、今の時代に必要な考え方、スタンス、そして筋を通したあり方を訴えたいという、切なる思いがあるのだと感じた。【村上幸将】