ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本のロシア料理店にはネット上の口コミで、差別的な誹謗(ひぼう)中傷が相次いでいる。東京・新宿のロシア料理店でも、事実と異なるいわれのない嫌がらせを書き込まれた。日本人の予約責任者の男性は「心ない中傷を受けることは残念。日本が好きな外国人のスタッフや留学生が心配」と思いを口にした。

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新宿で数十年前から店を構える。新型コロナがまん延する前の19年まで、店の半数以上のスタッフがロシア語圏内の留学生だった。男性は「ロシア人もウクライナ人も新しいアルバイトが入るたびに、国に関係なく仲良く仕事を教え合っていた」と振り返った。戦争が始まり悲しむウクライナ人留学生や、新宿、渋谷の反戦デモに参加するロシア人留学生がいた。

60年前、旧ソ連が核ミサイル基地を建設していたことが発覚した62年の「キューバ危機」の時にも、中傷はあった。当時、郵便やFAXで「何を考えているんだ」と、ロシア料理店を経営することに対して、批判の手紙が届いたと聞いている。昔の経営者からは「日本では政治と飲食業の集客はリンクしないから、焦る必要はない」と言われたが、すでに新型コロナ禍で売り上げが半減する中での逆風に「焦らずに状況を見て、冷静に対応したい」と語った。

「お客さまの中にはニュースを見て、2つの国がどういう国なのか、小学生の娘の勉強のために家族4人で来てくださった方もいます」。男性は「そういう心温まる出来事もあり、中傷に落ち込んでいる場合ではない」と前を向く。

目黒区のロシア料理店では中傷されたりはしていない。今回の侵攻に反対しているロシア人の女性店主は「心配してくれる日本のお客さんが多いです」。店主は「米国や欧州のお客さんが減った気がする」と不安げに話した。午後2時半ごろ、リトアニア人とオーストラリア人の2人の男性が訪れた。男性らは「ロシアのお店、今大変でしょう。食べに来たよ」。ランチタイムは終わっていたが、店主は笑顔でビーフストロガノフを作り始めた。【沢田直人】